名誉毀損罪、侮辱罪の3つの成立条件【元刑事が解説】
当事務所へのお問い合わせで大変多いのがこの二罪に関するものです。お話をお聞きすると、残念ながら犯罪とならないケースが過半数を占めます。この二罪が成立するには何が条件となるのかを説明したいと思います。
条件1 公然性
「公然性」とは、「不特定または多数」の人が認知するまたは認知する可能性があるということです。具体的な人数は決まっていませんが、裁判例では「20人」程度としたものや、「数人」であっても「伝播性」があれば成立するとしたものもあります。「伝播性」とは、守秘義務などを持たない一般人に知られた場合に、その一般人から周囲へ噂話として広まり、結果として大勢の知るところになる可能性のことです。一般的には、「3、4人」以下であれば「不特定または多数」には該当しないと思われます。この辺りは「伝播性」も含めるとなかなか難しいところがありますので、個別判断になってくると思います。
SNSなどのネット上の書き込みは、「誰でも見られるページ」に記載されたなら、ほぼ無条件で「公然性」が認められます。ただし、LINEのトークのように登録メンバー数人しか見ることのできないサイトであれば、否定されるでしょう。
条件2 個人の特定
ネット上の書き込みや文書による犯行の場合、被害者が特定されている必要があります。「どこの誰か」ということです。基本的には、本名がフルネームで記載されていることが条件になります。例外としては、芸能人などの著名人が使っている「芸名」「通名」も該当します。また、「株式会社○○の社長」といった、世界に一人しかいない立場・役職などの表現をした場合も「どこの誰か」は明白ですので、該当するでしょう。
一方、「ハンドルネーム」「アカウント名」「ID」「メールアドレス」「電話番号」「関西人」「タクシー運転手」などは、該当しません。ただし、「ハンドルネーム」については、ユーチューバーなどの台頭によって、芸能人の「芸名」と同じように考えることができ、今後の裁判例によっては「著名なハンドルネーム」であれば該当するという考え方に変わってくるかもしれません。(現状は否定的です)
「鈴木明夫」のような、日本国内に何千人いるかわからないであろう名前の場合は、名前だけではどこの鈴木明夫さんか不明なので、成立しないと考えます。ただし、話の前後関係から推定できたり、「千葉県○○市○○町に住んでいる鈴木明夫」「株式会社○○本社勤務の鈴木明夫」などの場合、どこの鈴木明夫さんがかなり限定されますので、該当するでしょう。
条件3 他人の社会的評価をおとしめる(またはその可能性がある)言動・表現
成立条件で一番難しいのがこの条件かもしれません。なぜなら、名誉感情や自尊心などの基準は個人によって大きく変わるからです。例えば、Aという人にとっては言われて何とも思わない言葉が、Bという人にとっては耐えがたいくらいに自尊心を傷つけられる言葉であることがあります。では、相談を受ける警察官が何を基準に「社会的評価をおとしめる」と判断するかというと、「社会通念」を基準とします。個々の被害者がどう感じたかではありません。したがって、Bさんがいくら名誉感情や自尊心にダメージを受けたとしても、警察官から見てその言葉が「社会通念上」社会的評価をおとしめる表現だとは思われないと判断した場合には、犯罪の成立が否定され、告訴状は受理されないことになるでしょう。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
