告訴・告発、不受理の場合の対策【元刑事が解説】
実際に現場で告訴状・告発状を何百通と受理または不受理としてきた私が、その経験から、告訴・告発が不受理とされたときの対策を、理由別にお話しします。
1.「告訴・告発事実が犯罪ではない」「告訴・告発事実が明確でない」と言われた場合
不受理とされる理由で一番多いケースだと思います。刑事に対して、「犯罪にならない理由」を詳しく聞いてメモ等してください。一旦持ち帰って、本やネットで刑事の言ったことが正しいかを確認しましょう。ご自分で判断がつかない場合は、弁護士または元刑事の行政書士にお尋ねください。
「告訴・告発事実が明確でない」の場合は、事実の書き方に問題があり、きちんと所定の法則に従って記載すれば受理される可能性があります。当事務所サイトの「告訴状の書き方」ページ内に「告訴・告発事実集」があります。刑法犯罪から特別法違反まで多数の罪種を掲載していますので、該当があればこれを参考に事実を作り直してみてください。コツとしては「起こった事実だけ記載する」ことが重要です。「被告訴人は極めて悪質です」とか「このような卑劣な犯行をした被告訴人は厳重に処罰されるべきです」などの意見を入れてはいけません。これらの意見は、「告訴の事情等」他の項目欄に記載すべきです。
2.「証拠がない」と言われた場合
これも不受理となる場合の理由で多いケースです。例えば詐欺罪で、「契約書」「請求書」「領収書」「借用書」「名刺」「パンフレット」などの書類が一切ないとします。しかし、「会話の録音」「相手とのメール」「電話や会話したときのメモ書き」「証言してくれる知人」「ネット上の書き込み」「同じ被害にあった他の被害者」などはありませんか? もしこれらがあるなら、資料化、書類化すれば立派な証拠になります。
ただし文書偽造罪で、偽造文書の原本が廃棄等で存在しない場合は不受理となります。コピーがあったとしても、コピーでは指紋や筆圧などの鑑定ができないからです。
3.「(発生から)日にちが経ちすぎている」と言われた場合
概ね犯行日から1年以上を経過した告訴・告発事件の受理を警察は嫌がります。処理までに許された期日がそれだけ短くなることと、防カメデータが上書きされたり、関係者の記憶が薄れるなど、捜査上の問題もあるからです。しかし、公訴時効が過ぎていない限り、発生から日にちが経っているとの理由だけで不受理とすることはできません。日にちが経ってしまった理由を整理して、やむを得ず今日になってしまったことを説明し、理解してもらいましょう。
4.「公訴時効が成立している」と言われた場合
公訴時効は、犯行が終わった日から時計の針が動き出します。被害者が犯罪被害に気付いた日ではないので注意が必要です。暴行、脅迫、器物損壊、名誉毀損、侮辱は3年です。(単純)横領、私文書偽造、背任は5年です。窃盗、詐欺、恐喝、業務上横領は7年です。きちんと数えて実際に超過していれば、不受理とされるのは仕方ありません。
5.「告訴期間が過ぎている」と言われた場合
「告訴期間」とは、「公訴時効」とまぎらわしいのですが、全く別の決まり事です。「告訴期間」とは、「親告罪」(名誉毀損、侮辱、器物損壊、過失傷害など)において、被害者が「犯人を知った日」から6か月を過ぎると告訴できないという制度です。
「犯人を知った」とは
① 犯人の名前や住所などを知った場合
② 名前はわからないが、明るい場所で顔をはっきり見て覚えており、本人や写真を見ればすぐにわかる場合
とされています。よって①②の状態になった日から6か月を過ぎてしまっていれば、不受理となってしまいます。
6.「当署は管轄ではない」と言われた場合
法的には、告訴・告発はどの警察署でも受理できることになっていますが、現実問題として、警察は他署管内で発生した告訴・告発を受理しません。この点については、警察は絶対に譲らないので、諦めてください。管轄がどこの警察署であるかを教えてもらい、その警察署に出直しましょう。ただし、その警察署に行った際に、「ここに来る前に○○警察署に行ったら、ここに行けと言われて来ました」とは絶対に言ってはいけません。理由は守秘義務にかかる可能性があるので書かないでおきます。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
