被害届とは? 元警視庁刑事がわかりやすく解説
被害届とは
被害届とは、何らかの刑法犯罪の被害にあった「被害者」の方が、警察署刑事課に対してその事実を届け出る書類です。したがって、検察庁に提出することはできませんし、刑法犯罪ではない交通事故の被害にあった方も提出することはできません。また、薬物犯罪や銃刀法違反など、被害者が存在しない犯罪についても提出することはできません。
被害届に費用はかかる?
被害届に費用は全くかかりません。また、本来は被害者自身が作成するものなのですが、定まった様式があり、記載内容も定型化されているため、ほとんどの場合、警察官が代わりに作成してくれます。どうしても自分で書きたい!という人がいるかもしれませんが、元警察官や弁護士、検察官、裁判官でない限り、何枚書いても不受理となる可能性が高いです。
被害届の効力・提出する意味は?
「被害届とは」のところで記載しましたとおり、被害届は「このような犯罪被害にあいました」と、警察に申告する書類です。受理した警察は一応の捜査義務を負いますが、検察庁への送致(マスコミ用語でいう送検)義務は負わないため、捜査しても犯人がわからなかったり、事件性無しなどと判断された場合は、そのままファイルに綴じられて刑事課の倉庫で公訴時効まで保管されて終わりとなる可能性があります。
被害届は必ず受理してもらえる?
以下のような場合には警察官が被害届の作成・受理を断る可能性が高いです。
1.届け出の内容が犯罪に該当しないと警察官が判断した場合
例えば大声で怒鳴られたから「暴行罪」と「脅迫罪」だとして被害届を出しに行っても受理されないでしょう。また、指一本でチョンと肩を軽く押されたとして暴行罪で被害届を出したいと言っても断られるでしょう。
2.公訴時効が過ぎている場合
窃盗、詐欺の公訴時効は7年です。横領は5年です。器物損壊、名誉毀損は3年です。これらの期間が過ぎている場合は絶対に受理されません。なお、公訴時効の時計の針は、「犯罪が終わったとき」から動き始めます。被害者が「犯罪に気付いたとき」ではありませんので注意が必要です。
3.被害者以外が届け出た場合
被害届は、犯罪被害にあった被害者本人が提出することが大原則です。そもそも、被害者以外の人は、受けた犯罪の詳細までわからないでしょうから、被害届を作成する警察官からの質問に正しく返答できないことが多いでしょう。ただし、何らかの理由によって、どうしても本人が警察署に行けない場合は、家族や上司、弁護士などが代理人として提出できる場合もあります。
4.管轄外の場合
警察署には「管轄」あります。法令的には、一応どこの警察署でも受けられることになっているのですが、警察内部の慣例等から、管轄権のある警察署が受けることが常態化しています。事件発生場所を管轄する警察署に届け出てください。
5.被害弁済が終わっている場合
窃盗、詐欺、横領、恐喝などの財産犯の場合、被害金が全額または大半が返済済みであれば、検察官が起訴する可能性は限りなくゼロとなりますので、それを理由に受理を断られる可能性が高いです。
6.犯人が死亡している場合
上記5同様、起訴可能性がゼロなので受理されません。
7.相被疑者(あいひぎしゃ)の場合
例えば相手に殴られたので自分も殴り返してしまった場合、警察は二人とも、相互に被疑者/被害者として事件送致することになります。つまり、一方の被害者が被害届を出すことにより、その被害者は同時に被疑者(犯人)にもなってしまうのです。警察からは「お互い前科1犯になるだけなので止めた方がいいですよ」と説得されるでしょう。
被害届を提出した結果どうなったか教えてもらえる?
警察には、捜査経過について、被害者に通知する義務はないので、制度として教えることはありません。これは担当刑事の判断になるので、連絡を待つか、定期的に電話してみましょう。親切な刑事なら、現状や今後の見通しを教えてくれるかもしれません。
まとめ
以上のように、被害届は事件発生を届け出るだけの書類であり、警察は事件を送致する義務は負わないので、送致されないまま紙切れとなって倉庫行きになる可能性があります。また、被害者が存在する犯罪しか提出できないので、薬物犯罪や、銃刀法違反、弁護士法違反などの特別法違反犯罪については適用外です。よって、確実な事件送致と犯人の処罰を強く求めるなら告訴状、被害者不在の犯罪を訴え出るなら告発状の提出が必要となります。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
