告訴・告発の取消(取下げ)について【元刑事が解説】

告訴取り消しの基本

刑事訴訟法第237条第1項に基づくと、「告訴は、公訴の提起があるまで取り消すことができる」と定められています。この規定は主に親告罪に関するものであり、名誉毀損、侮辱、過失傷害、器物損壊などが該当します。親告罪以外の告訴については、起訴後でも取り消しが可能であり、その後に再告訴を行うことも法的に認められています。警視庁ではなぜか上条文と異なる「取下げ」という言葉を使っていますが、意味は全く同じです。

親告罪における告訴取り消し

同条第2項には、「告訴の取り消しをした者は、更に告訴をすることができない」とありますが、これは親告罪にのみ適用されます。つまり、親告罪においては告訴は起訴前にしか取り消しできず、一度取り消すと再告訴ができなくなります。

示談と告訴取り消し

告訴取り消しを示談の一環として行う場合、重要な点があります。例えば、被告訴人との間で「示談金を支払い、告訴を取り消す」という合意があった場合、示談金の支払いを確認する前に告訴を取り消すと、そのまま示談金が支払われなくても再告訴ができなくなります。このため、示談金が支払われたことを確認した後に告訴取り消しを行うことが非常に重要です。

共犯者と告訴取り消し

共犯者がいる場合、告訴取り消しは「告訴不可分の法則」により、取り消しが一人に対して行われると、共犯者全員にも適用されます。これにより、「一人だけ処罰しないでほしい」という希望は通らないことになります。

「取下げ」と「取り消し」

警視庁では告訴の取り消しを「取下げ」と呼ぶことがありますが、これは他県では一般的でない表現です。実務においては、「取り消し」と「取下げ」の意味合いに違いがある可能性があるため、用語の違いに注意が必要です。

告発の取り消し

告発については特に規定がなく、基本的にいつでも取り消しが可能で、再告発も可能です。告発の取り消しは法的には口頭でも行えますが、実務では告訴取り消し書の提出が一般的です。代理人が取り消し書を作成する場合、委任状には「告訴及び取り消し」の記載が必要です。

旧記事
 刑事訴訟法第237条第1項には「告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。」とありますが、これは親告罪(名誉毀損、侮辱、過失傷害、器物損壊など)についてとするのが通説です。したがって、非親告罪の告訴は起訴後でも取消ができますし、さらにその後に再告訴することも法的には可能です。
 同条第2項には、「告訴の取消しをした者は、更に告訴をすることができない。」とあります。これは前記同様、親告罪についてのみとされています。よって、親告罪の取消は、起訴前にしかできず一度取り消したら二度と告訴できないことになります。ここで気をつけなくてはならないのは、示談との関係です。被告訴人との間で「被告訴人○○は示談金として○○○万円を告訴人○○に支払い、告訴人は本件告訴を取り消す。」となっていた場合、先に告訴を取消し、その後被告訴人が示談金を払わないとなると、再告訴ができないために、秘告訴人はお金を払わない上に、起訴されないので何らの処罰も受けないことになり、完全に逃げ得になってしまいます。よって、示談で親告罪を取り消す場合には、示談金の支払いを確認してからにすることが最重要となります。
 共犯者がいる場合、告訴不可分の法則により、一人に対する取消は共犯者全員に及びますので、「一人だけ処罰しないでほしい」という希望は通りません。
 警視庁では、取消をなぜか「取下げ」と呼称しています。他県から来た検察官から「なんで警視庁だけ『取下げ』って言ってるの?」と聞かれたことがありますが、私にもわかりません。
 告発については、特に規定がないので、いつでも取消ができて、再告発も可能となります。
 取消は、法的には口頭でも可能と解されますが、実務上は告訴取消書の提出をもって行われます。代理人が取消書を作成する場合、委任状に「○○を○○罪で告訴する件」しか書いてないと検察官から指摘を受けることがあります。よって委任状には、「及び取り消す件」の記載も必要です。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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