警察が告訴・告発を受理しない10のケース【元刑事が実務を解説】
「告訴状を提出すれば必ず警察が受理してくれる」と考えている方は少なくありません。しかし実際には、警察が告訴・告発を受理しないケースは数多く存在します。
もちろん、公訴時効が完成している事件、親告罪の告訴期間(犯人を知った日から6か月)を過ぎた事件、犯罪が成立しない事案、匿名で提出された告訴状、犯人の処罰意思が明確でない告訴状など、法律上の要件を満たさないものが不受理となるのは当然です。
しかし、それ以外にも法律上は告訴・告発が可能であっても、実務上ほとんど受理されないケースがあります。
ここでは、元警視庁刑事として32年間勤務し、多数の告訴・告発相談を扱ってきた経験をもとに、警察が受理を見送る代表的なケースを紹介します。なお、受理可能性は私の実務経験に基づく目安です。
① 被害弁済が済んでいる事件(受理可能性:0~70%)
詐欺や横領などの財産犯で、被疑者が被害金額の全部または一部を返済している場合や、暴行・傷害事件で治療費や慰謝料が支払われている場合です。
もちろん、お金を支払ったからといって犯罪が消えるわけではなく、告訴すること自体は可能です。
しかし、詐欺や窃盗などの財産犯で被害金額を全額弁済している事件では、検察官が起訴する可能性は極めて低く、警察もこれを理由に告訴状の受理を断ることがあります。
一方、一部しか返済されていない場合は、返済割合が重要になります。
例えば100万円をだまし取り、そのうち10万円しか返済していない場合であれば、通常は「一部返済」を理由に受理を拒否することはありません。
しかし、被害額の半分以上が返済されている場合には、不受理となる可能性が高くなります。
法律上の明確な基準はありませんが、実務では「約半分」が一つの判断材料となります。また、今後も継続的に返済が見込めるかどうかも重要な判断要素です。
実務上の目安
- 全額弁済済み……受理は極めて困難
- 返済が1~2割程度……受理が期待できる
- 半分以上返済を受けている……不受理となる可能性が高い
② 被害者に処罰意思がない事件を第三者が告発する場合(受理可能性:0%)
財産犯、傷害、住居侵入など被害者が存在する犯罪では、第三者が告発すること自体は法律上可能です。
しかし、被害者本人が
- 被害届を提出しない
- 告訴しない
- 処罰を望まない
という場合、警察が告発状を受理することは実務上ありません。
理由は、
- 検察官が不起訴とする可能性が極めて高いこと
- 被害者の協力が得られず捜査が進まないこと
が明らかだからです。
私自身も現役時代、このような相談を受け、被害者に確認した結果「被害申告しません」と回答されたため、相談者に対し「被害者が告訴状を提出するのであれば受理できますが、そうでなければ受理できません」と説明して断ったことがあります。
③ 海外で発生した事件(受理可能性:1%)
日本人が被害者であっても、国外で発生した犯罪について告訴することは法律上可能です。
しかし、日本警察の捜査権は国外には及びません。
海外捜査を行うには、
- 告訴状などを翻訳
- 警察庁経由でICPO(国際刑事警察機構)へ依頼
- 現地警察へ捜査要請
という手続が必要になります。
実際には殺人や誘拐などの重大事件以外では対応される可能性は極めて低く、詐欺や横領事件で受理されることはほぼありません。
④ 公訴時効が迫っている事件(受理可能性:0~30%)
犯罪には公訴時効があります。
例えば、
- 詐欺罪・窃盗罪……7年
- 単純横領罪……5年
- 名誉毀損罪……3年
となっています。
告訴事件は複雑なものが多く、警察・検察での処理にも数か月以上かかることが一般的です。
実務では、遅くとも時効の約6か月前までには検察へ送致するという協定があり、公訴時効まで残り1年を切っている事件は、受理を敬遠される傾向があります。
また、
- 防犯カメラ映像が削除済み
- クレジットカード会社の保存期間経過
- 関係者の記憶が曖昧
など、証拠収集が困難になることも理由です。
⑤ 告訴人の記憶以外に証拠が何もない事件(受理可能性:0~50%)
警察が最も多く挙げる不受理理由が「証拠不足」です。
例えば詐欺事件で、
- 契約書
- 領収書
- 名刺
- メール
- LINE
- 録音
- 防犯カメラ
- 目撃者
がこれら何一つ存在しない場合、警察としては
「本当に事件があったのか」
という段階から確認しなければなりません。
一方で、
- 被疑者宅の捜索で証拠が発見される可能性が高い
- 関係者が証拠を保有している可能性が高い
など、警察による強制捜査で証拠収集できる見込みがある場合は受理されることもあります。
また、性犯罪のように密室で発生しやすい犯罪では、被害者供述を慎重に検討した上で受理・不受理が判断されます。
⑥ ネット上の名誉毀損・侮辱で証拠が全く残っていない場合(受理可能性:0%)
投稿が削除されていても、
- スクリーンショット
- 保存画像
- URL
- アーカイブ
などが残っていれば捜査可能です。
しかし、何一つ記録が残っていない場合は捜査の手掛かりがなく、実務上は受理されません。
⑦ 文書偽造事件で偽造文書の原本が存在しない場合(受理可能性:0%)
有印私文書偽造や公文書偽造では、原本が極めて重要な証拠になります。
警察では、
- 筆跡鑑定
- 指紋採取
- 筆圧鑑定
- 書字順鑑定
- 紙質鑑定
などを行うためです。
銀行や法務局などに原本が保管されており押収可能であれば受理される可能性はありますが、原本が完全に廃棄されている場合は受理は困難です。
⑧ 被告訴人が死亡している場合(受理可能性:0%)
法律上は告訴できます。
しかし、被疑者が死亡している以上、起訴されることはありません。
そのため、警察が告訴状を受理することは実務上ありません。
⑨ 管轄外の警察署へ提出した場合(受理可能性:0%)
法律上は全国どこの警察署にも提出できます。
しかし実際に捜査するのは、
- 犯罪発生地
- 被疑者住所地
- 被害者住所地(ネット犯罪など)
を管轄する警察署です。
そのため、全く関係のない警察署へ提出すると、
「管轄警察署へ提出してください」
として受理されません。
⑩ 他の警察署で既に相談している同一事件(受理可能性:0%)
一度A警察署で相談した事件を、改めてB警察署へ持ち込んでも受理されません。
警察内部の相談システムでは、相談履歴が共有されているためです。
そのため、
「既に○○警察署で相談されていますので、引き続きそちらへ相談してください。」
と案内されるのが通常です。
まとめ
警察が告訴・告発を受理するかどうかは、法律だけで決まるわけではありません。
実務では、
- 証拠の有無
- 被害回復状況
- 時効までの期間
- 被害者の協力
- 管轄
- 捜査可能性
などを総合的に判断して受理の可否が決定されます。
告訴状を提出する前に、これらのポイントを確認し、警察が受理しやすい内容に整えておくことが、受理率を高めるための重要なポイントです。
○警察への告訴状・告発状の作成は元警視庁刑事の行政書士にお任せください。こちら
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。


