告訴事実、被疑事実、犯罪事実、起訴事実【元刑事が解説】
告訴状には、どのような犯罪被害にあったかを記載する項目として「告訴事実」があります。告訴状の記載項目の中で一番重要な項目です。告訴状を書き慣れない人がこの告訴事実を作成すると「告訴人は、5年くらい前に被告訴人と知り合いました。以来、年に数回会って、一緒に食事をする関係でした。令和4年12月に門前仲町駅近くの小料理店で会ったときに、ビールを2、3杯飲み、互いの近況話をした後、『実は絶対儲かる話があるんだけど、○○さんにだけ教えてあげる。他の人には秘密だよ。』などと言われました。私は、興味をもって話を聞いたところ、フィリピンでエビを養殖する事業に投資するというもので、100万円預ければ、2か月後には1.5倍、4か月後には2倍になるということで、原本は100%補償される・・・」と、このように作文調になってしまうことが多く、長さもA4用紙で数枚にもなってしまうことがあります。プロが作成する告訴事実は「被告訴人は、虚偽のエビ投資話で告訴人から金銭を騙し取ろうと企て、令和4年12月1日、東京都江東区深川1丁目1番3号「小料理深川」店内において、真実はフィリピン国内でエビ投資事業が存在しないにもかかわらす、『知人がフィリピンでエビの投資事業をしている。私に100万円預けてくれれば、4か月後に2倍して返します。」などと嘘を言い、同月2日、前記「小料理深川」店内において、同投資話を信じた告訴人から現金100万円の交付を受け、もって、人を欺いて財物を交付させたものである。」のように簡潔明瞭なものとなります。
告訴状を受理した刑事は、事件を捜査して、被告訴人を逮捕するとなると、裁判所に提出する「逮捕状請求書」を作成します。この逮捕状請求書には、事件内容を簡記する「被疑事実」を記載します。これは先ほどの「告訴事実」を元にしたもので、捜査によって、より正確に、より詳細になる傾向があります。
逮捕状が発付され、被告訴人を逮捕すると、48時間以内に検察庁に送致しないとなりません。このとき被告訴人の身柄と一緒に検察庁に送るのが「送致書」です。送致書には「犯罪事実」として事件内容を記載しますが、ほとんどの場合、先ほどの被疑事実と一語一句同じものです。
送致を受けた検察官は、10日または延長して20日以内に、被告訴人を起訴するかどうかを決めます。起訴となれば、起訴状を作成して裁判所に提出し、被告訴人は法廷で裁かれることになります。この起訴状に記載される事件内容が「起訴事実」です。起訴事実は、警察が作成した犯罪事実を元にしたものですが、検察官はプライドが高いので、警察官が作成したものと全く同じにすることは絶対にありません。複数の警察官が練りに練って作成し「これはもう変えようがないだろう」とギリギリまで贅肉をそぎ落とした犯罪事実をさらに短くしてくることがほとんどです。犯罪事実や起訴事実などの「事実」は、いかに必要な事項を入れ、いかに不要な事項を省くかが重要と言われ、短ければ短いほどいいとまで言われるものです。我々警察官が何ヶ月もかけて熟慮して作成した犯罪事実を検察官は毎度のように不要部分をバッサリ切り捨て、見事に簡素化された起訴事実を書くので、いつも「すごいなあ」と感心したものです。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。


