昔、警視庁大井警察署刑事課で汚職事件が2件連続発生した件(捜査二課員だった私が同じ捜査二課員の取調べを受けた話)
もう20年以上前の古い話で恐縮ですが、実際にあった話です。私は大井警察署に丸5年勤務し、このコラムにも度々記載していますように、その5年間でいろいろなことがありました。そして表題のとおり、警察官としては珍しい「汚職事件(収賄)」が2件連続で発生・発覚し、現職刑事2名が相次いで逮捕されるという大きな不祥事ありました。
第一事件
強行犯係にいたX巡査部長は、非常に真面目な刑事で、柔道が強くて署対抗試合では毎回代表選手に選ばれるほどでした。仕事もよく知っていて判断も適正で、駆け出し刑事だった私にとっては良いお手本のような存在でした。このX巡査部長が収賄罪で逮捕された経緯はこうです。あるときスポーツ新聞の広告欄に探偵事務所の広告が掲載され「電話番号の名義人調べます」とありました。探偵には何の権限もありませんから、電話会社に照会して契約者を調べることはできません。この広告を見つけたNTTは、客のふりをしてこの探偵事務所にNTT社内のある部署で使っている電話番号の調査を依頼しました。そしてどこの捜査機関がこの番号を照会してくるかを待っていたところ、大井警察署のX巡査部長が捜査関係事項照会書をNTTに送ってきたのです。すぐに警察庁を通して連絡があり、X巡査部長の取調べが始まりました。X巡査部長は、事件で知り合った探偵事務所の経営者と親しくなり、頼まれて電話番号を調べるようになり、謝礼として飲食や高級ウイスキーなどの提供を受けたと話しました。しかし、相手方の探偵を調べた結果、結構な額の現金(古い話なので金額は失念しました)を受け取っていたことがわかり、収賄罪で通常逮捕、懲戒免職となりました。非常に優秀な刑事であり、当時の刑事課内では一番汚職事件なんてやりそうにない人だったので、とても驚いた記憶があります。
第二事件
私と同じ知能犯係にいたY巡査部長は、当時年齢が50歳くらい、知能犯刑事の経験が長く、私と同じ階級とはいえ、知識と能力は私の数倍あったベテラン刑事でした。大井警察署で初めて刑事になり、盗犯係から知能犯係に入れられ、何もわからなかった私に一から知能犯の仕事を教えてくれたのがこのY巡査部長でした。巡査部長とはいえ大ベテラン刑事だったので、刑事課内でのポジションは係長以上とも言えました。Y巡査部長は、推薦で警部補に合格し、S警察署に昇任配置換えとなったのですが、それから数年経って収賄罪で逮捕されてしまったのです。事件は大井警察署にいた間に発生したもので、一度告訴事件で扱った関係者から、自分に対する告訴状を受理しないように働きかけを受け、その代償として現金450万円を受け取ったというものでした。この収賄事件捜査は、警視庁捜査第二課が担当したのですが、当時私も捜査第二課内の別の係に在籍していました。そして、事件発生当時Y警部補と一緒に勤務していた私も捜査対象となり、参考人という立場ではありましたが、捜査第二課の取調べを受けました。捜査二課員が捜査二課員を調べるという、何とも奇妙な状況でした。私を調べた若い主任(警部補)は、とても恐縮して、わざわざ自分が被疑者側の席に座り、私を取調官側の席に座らせるほど気を遣ってくれました。私に対しての容疑は、事件に関与していたかとY警部補から金銭等をもらったことがないかという2点でした。もちろん、どちらも全く無かったので、「知りません」「もらってません」で取調べはすぐに終わりました。その後Y警部補は起訴されて懲役の実刑となりました。もちろん懲戒免職ですから何千万円かの退職金は1円ももらえなかったことになります。
AI版(内容は同じです)
20年以上前に起きた衝撃の警察汚職事件
本記事では、警視庁大井警察署で実際に発生した2件の汚職事件について詳しく解説します。筆者自身が刑事課に所属していた経験をもとに、当時の状況を振り返ります。
第一の事件:優秀な刑事が収賄で逮捕
X巡査部長の逮捕の経緯
X巡査部長は強行犯係に所属し、柔道の腕前も高く、署対抗試合の代表選手にも選ばれるほどでした。仕事に対する姿勢も真面目で、当時の私にとって良いお手本でした。
しかし、ある日、NTTがスポーツ新聞の広告で「電話番号の名義人を調べる」と宣伝する探偵事務所を発見。NTTは試しに社内の電話番号を調査依頼し、どの捜査機関が情報照会を行うかを監視しました。その結果、大井警察署のX巡査部長が捜査関係事項照会書を送付。
収賄の詳細
X巡査部長は事件関係で知り合った探偵事務所の経営者から依頼され、電話番号の照会を開始。その見返りとして飲食や高級ウイスキーを受け取っていたと供述。しかし、捜査の結果、現金の授受も発覚。結果、収賄罪で通常逮捕・懲戒免職となりました。
第二の事件:知能犯係のベテラン刑事の転落
Y巡査部長の経歴と逮捕の経緯
Y巡査部長は50歳前後のベテラン刑事で、知能犯係に長年勤務。私が捜査を学ぶ上での師匠的存在でした。刑事課内でも実力が高く、警部補へ昇任し、S警察署へ異動。
しかし、その数年後、収賄罪で逮捕。問題となったのは、大井警察署勤務時代の事件。告訴事件の関係者から、告訴状を受理しないように頼まれ、見返りとして450万円を受領したのです。
私も捜査対象に
この収賄事件を担当したのは警視庁捜査第二課。私は当時、同じ捜査二課内の別の係に在籍していました。そのため、捜査対象として参考人取調べを受けることに。
取調べの際、担当の警部補は私に気を遣い、被疑者側の席に座るほどでした。尋ねられたのは、
- 事件への関与の有無
- Y警部補からの金銭受領の有無
当然ながら、どちらも無関係だったため、取調べはすぐ終了。その後、Y警部補は起訴され、懲戒免職のうえ実刑判決を受けました。退職金も全額没収されたため、人生を大きく狂わせた事件となりました。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
