刑事を騙し取られた詐欺事件【元警視庁刑事のコラム】

不動産取引を狙う地面師詐欺は、近年大きく報道されるようになりましたが、実は警察内部でも対応が極めて難しい犯罪のひとつです。

私が警視庁本部の生活経済課からある警察署(I署)へ異動になった直後、まさにそんな被害額約1億円の地面師詐欺事件を担当することになりました。

しかし、この事件は「すぐに捜査二課が来て処理する」という話だったにもかかわらず、最終的には4年間も放置に近い状態となってしまったのです。

今回は、地面師詐欺の捜査がなぜ難しいのか、警察内部で実際に何が起きていたのかを、元刑事として実体験をもとにお話しします。


地面師詐欺事件の担当になった直後に告げられたこと

I署へ異動してすぐ、私は知能犯捜査係に配属されました。

そこには以前から知っている先輩刑事のS係長がいて、着任早々、ある詐欺事件の引き継ぎを受けました。

それが、被害額約1億円の地面師詐欺事件でした。

ただし、その時点ではまだ正式な刑事事件ではなく、被害者からの相談段階。告訴状も受理されていませんでした。

S係長から説明された内容は次の通りです。

  • この事件は非常に複雑
  • 被疑者は7人
  • 主犯格は地面師詐欺で有名な人物
  • 警察署単独での捜査は困難
  • いずれ警視庁捜査二課の捜査員が来て対応する予定

要するに、

「受理だけして待っていればいい」

という話でした。

告訴状案に目を通しましたが、一読しただけでは理解できないほど複雑な内容でした。


告訴状を受理し、被害者に約束してしまった

S係長からは、

「捜査二課が来てくれるから大丈夫」

と言われました。

内心では、

「それなら最初からあなたが受理してくださいよ」

と言いたかったのですが、過去に大事件の捜査本部で世話になった先輩だったため言えませんでした。

そこで私は自分で告訴状を何度も読み込み、事件の構図を理解し、被害者である不動産会社社長を呼んで正式に告訴状を受理しました。

さらに告訴人調書も作成。

その社長は非常に怒っており、

「犯人を絶対に許せない。厳しく処罰してほしい」

と強く訴えていました。

私は、

「間もなく捜査二課が対応しますので安心してください」

と説明しました。

しかし、この言葉が後に自分を苦しめることになります。


捜査二課が来ない…予定変更の連続

しばらくして、他署で進んでいた別の地面師詐欺事件が終了しました。

当然、捜査二課がI署に来るものと思っていました。

ところが、来ません。

理由は、

「予定変更で別の事件に入った」

から。

しかも、その後も状況は変わりませんでした。

捜査二課の担当係長からは時々電話があり、

  • 今は行けない
  • 先にこの捜査を進めておいて
  • いずれ行くつもりではある

そんな話ばかりでした。


被害者からの電話に謝り続けた日々

その間、被害者である社長からは何度も電話がありました。

当然です。

被害額は約1億円。

普通なら一日でも早く捜査してほしいはずです。

しかし私が答えられるのは、毎回同じ言葉だけでした。

「申し訳ありません。もう少しお待ちください。」

それしか言えませんでした。

2か月、3か月、半年…。

時間だけが過ぎていきました。


2年後、嫌な予感が現実になる

約2年が経った頃、捜査二課の担当係長が昇任し、別の警察署の刑事課長として異動しました。

異動前に、

「事件は後任にきちんと引き継ぐ」

と言ってくれました。

しかし、私は警察組織の現実を知っていました。

幹部が交代すると、前任者の約束は簡単に消えることがあります。

そして、その予感は的中しました。


結局4年間放置…警察署だけで対応することに

最終的に、知能犯担当の課長代理が捜査二課に直接交渉しました。

返ってきた答えは衝撃的でした。

「そちらでやってください。こちらは行きません。」

完全な梯子外しです。

結果として、

  • I署は他署の捜査に刑事1名を派遣
  • 見返りの応援はなし
  • 約4年間放置
  • 最後は署単独対応

という最悪の結末になりました。


地面師詐欺の捜査が難しい理由

地面師詐欺は、通常の詐欺事件とは違い、

  • 不動産登記
  • 身分偽装
  • 複数共犯
  • 法律・契約知識
  • 資金の流れの追跡

など、極めて高度な捜査が必要です。

そのため、一般の警察署だけで対応するのは非常に困難です。

逮捕まで持ち込むには、人的戦力も専門知識も不足しがちです。

この事件でも結局、被疑者を任意で取り調べ、**書類送検(書類送付)**で終わったと聞いています。


元刑事として感じたこと

警察は一枚岩に見えるかもしれません。

しかし実際には、

  • 部署間の調整
  • 人員不足
  • 優先順位の変更
  • 幹部異動による方針転換

によって、事件対応が大きく左右されることがあります。

もちろん、すべての事件がこうなるわけではありません。

ただ、現場ではこうした現実があることも事実です。

被害者に「必ずやります」と言いながら動けなかったあの時の無力感は、今でも忘れられません。

○警察への告訴状・告発状の作成は元警視庁刑事の行政書士にお任せください。こちら


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。

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