「刑事として何かできなかったのか?」と悔やまれる取り扱い【元刑事のコラム】
F警察署知能犯捜査係長時代、宿直勤務中の午後8時頃に110番通報があり、当事者3名が署に同行されてきました。
事案の概要はこうです。
70歳代の主婦Aさんが、ぶどうの移動販売車が止まっているのを見て近づいたところ、販売者Bから「おいしいぶどうですよ。試食していいので食べてみて、どうぞどうぞ」と言われ、指さされたぶどうの房から2粒ほど取って食べたところ、まあまあ美味しかったので一房買うことにしました。料金は、その辺のスーパーで買うのと大差ない金額でした。Bがぶどうを袋に入れている間、Aさんは先ほどとは違うぶどうの房から1粒だけもぎ取って食べました。その瞬間、Bの態度が変わり「おい!それ最高級品なんだぞ!あんたが食ったからもう売り物にならねえ、どうしてくれるんだ!」と大声で怒鳴り出しました。Aさんは謝りましたが、Bは許さずに怒鳴り続けました。そこで、声を聞いたAさんの夫が駆けつけ、110番したというものでした。
同行されてきたBは終始大声でわめきちらし、「おい、俺は被害者だ!あのババアはぶどうを勝手に食ったから万引きだ!被害届を出させろ!」などと言い続けました。状況からして、Bがわざとこのような状況になるように誘導し、被害者から金を得ようとしているのは明らかでした。調べ室に座っているAさん夫婦はすっかりおびえています。私には、当時存命だった母親の姿が重なり、何とかしてあげたいという気持ちが強かったのですが、Aさんを助けてBを逮捕して留置場にぶち込める方法がどうしても思いつきませんでした。
私は、1時間以上、Bと取調室で怒鳴り合って何とか尻尾をつかもうとしましたが、どうにも適用できる法律の条文が思いつかず、それは一緒にいた刑事たちも同じでした。
最終的にAさんの夫が、財布から1万円を出し、「これで何とか」と言ったところ、Bは待ってましたとばかり「それで勘弁してやるわ」と言って、Aさんが一粒だけ食べたぶどうを置いて出て行きました。そのぶどう一房に1万円もの価値がないことはその場にいた全員がわかっていました。
それから10年以上経ちましたが、今でもふとしたときにこの事案が思い出されます。「あのとき何かの法令違反でBを検挙できなかったのか?」「Aさん夫婦に1万円払わせずに済む方法はなかったのか?」今でも答えがありません。警察人生で一番悔しい記憶です。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。


