刑事の行動確認(尾行)のやり方【元刑事が解説】

 警察では、誰かを尾行することを「行動確認」、略して「行確(こうかく)」と言います。制服を着た交番のお巡りさんが行確できるわけはないので、やるのは私服員である刑事や公安に限られます。この行確ですが、取調べと同じで教養や訓練はありません。全て実地で、現場で覚えます。教えてくれる優しい先輩や上司がいればいいのですが、そうでなければ見て盗むしかありません。正に職人の世界です。
 まず、服装が大切です。行確する場所に合わせないとなりません。バブルの頃に流行った言葉「TPO」です。例えば、競馬場やパチンコ店などでスーツを着ていたらすぐに刑事だと思われます。反対に、新橋や銀座でいいおっさんがGパンを履いていたら不自然で目立ちます。その場所場所に合わせた服装が必要です。
 普通のサラリーマンや主婦などの行確は楽です。自分が尾行されているなどとは考えないので、「点検(時々振り返って尾行されていないか確認すること)」することはなく、ひたすら前だけ見て歩くからです。反対に常習の泥棒などは、1分間に2回くらい後ろを振り返り、突然Uターンし、飛び乗った電車のドアが閉まりだしてから降りたりと、極めてトリッキーな動きをするので大変です。
 行確で一番重要なことは、相手に気付かれないことです。失尾といって、相手を見失うことは往々にしてあり、これは仕方がないことです。次回またチャレンジすればいいだけの話です。しかし、相手に気付かれてしまうと、捜査員の顔がバレて、その捜査員は次から行確に参加できなくなります。また、刑事に尾行されていると知った相手は、住居を変えてどこか遠くの地方に高飛びしてしまうかもしれません。行確がバレる典型例は、相手と目が合ってしまうことです。犯罪常習者の多くは勘がいいので目が合った瞬間に「ピーン」ときて気付いてしまいます。これを防ぐには、行確中に相手の顔を絶対に見ないことです。ではどこを見るかというと「靴」です。ひたすら相手の靴だけを見ます。そうすれば、相手が突然振り返っても、Uターンしても、目が合うことはありません。しかし、この方法にも欠点があり、相手が黒の革靴に無地のズボンなど、足下に特徴がないと、人混みの中や混雑した電車内ではすぐに見失ってしまうのです。そこでうっかり顔を上げて顔で探そうとするとその瞬間相手と目が合ってバレてしまうことがあります。
 距離も重要です。近すぎれば当然怪しまれますし、かといって離れすぎると相手が路地に入ったような場合、こちらがそこに到達した時点で相手は走るかさらにどこかの路地に入っていなくなっていることがあります。曲がった路地の先でこっちを向いて待っている場合もあります。近からず遠からず、場面場面に合わせて距離を調整しないとなりませんが、これはもう場数を踏んで体で覚えるしかありません。
 相手が何かの店に入った場合、一緒に中に入る方法と外で待つ方法があります。外で待つと、店に複数出入口があるとそこから逃げられることがあります。といって一緒に入るとバレる危険性があります。このような場合、捜査員が複数いれば連携を取って出入口を固めるのがいいでしょう。
 タクシーに乗った場合、運よくすぐにタクシーが来れば、拾って「前のタクシーを追って」と言って行確を続けることができます。何度かやったことがあるのですが、運転手が私が刑事だと気付き、信号無視とスピード違反を繰り返して刑事ドラマのような展開になったことがあります。さすがに危険を感じ「そこまでしなくていいですから」といってやめてもらいました。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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