浴槽内で亡くなりドロドロになったご遺体の運び出し方【元刑事が解説】

 病院以外の自宅や屋外などで亡くなった方が発見されると「変死」といって全件警察の取扱になります。昔は現場で検視をすることもありましたが、現在はほぼ全て警察署の霊安室にお運びしてそこで検視を行います。蛇足ですが、「検死」は誤用であり、警察では「検視」を使います。
 運び出すのに特に苦労するのは浴槽内で亡くなっていた場合です。新しければまだいいのですが、1週間以上経つと腐敗汁が浴槽内の水と混ざり合い、何とも言えない色に変色していることがあります。ある団地の浴槽内で見つかったご遺体もそうした状態の一つでした。中肉の高齢女性で、死後2週間前後経過していると思われ、浴槽内の水は赤茶色といいますか、非常におそろしい色になっており、触るとドロドロのシチュー状態でした。まず、このようなご遺体を浴槽から出すには、中の水を抜かないとなりません。私は風呂のゴム栓につながっているチェーンを引っ張り上げましたが、チェーンは何の抵抗もなくするっと上がり、先端にゴム栓は付いていませんでした。なんと、チェーンは切れていたのです。非常に困りました。現場にいる警察官は全員ラテックスの手袋をしていますが、長さは手首部分までしかありません。それに対して水深は40~50センチはありました。誰かが肘の上まで手を突っ込んで底のゴム栓を抜かないとなりません。私はいろいろ考えました。針金のハンガーラックを解いて先端をカギにしてゴム栓の輪に引っかけるのはどうか?水が透明ならできたかもしれませんが、腐敗汁でドロドロの水は2、3センチ先も見通せないくらいに濁っています。ゴム栓の位置すら見えないのに、そこにあるかどうかわからない輪っかに引っかけるなんて到底無理な話です。数分経ち、その場にいる刑事や警察官の目が自然と一番若い20台前半の交番から来ている警察官に向けられました。顔にまだあどけなさを残した若い警察官は明らかにおどおどした表情で、「えっ?僕がやるんですか?」という顔をしています。「これも修行だ、お前がやれ」と言おうと心を鬼にしようと瞬間、ひらめいたのです。流し場に行って探すと、東京都推奨の45リットルサイズのゴミ袋がすぐに見つかりました。私はこのゴミ袋の中に片手を入れ、そーっと浴槽の水の中に入れていきました。指が底に付き、周囲を探すとゴム栓が見つかったので引っ張るとすぐに外れ、無事に水を抜くことができました。もちろん手に腐敗汁は一滴も付かずに済みました。
 後はいつもの手順で、室内にあったバスタオルを仏様の両脇に通して二人で両端を持ち、別の二人が足を持って持ち上げて浴槽内から出すことができました。現役警察官がいらしたら、この技を覚えておくと、もしかしたらどこかの現場で役に立つかもしれません。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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