刑事になって初めて取った逮捕状で逮捕できなかった話【元刑事のコラム】
1997年、私が警視庁大井警察署で盗犯係の刑事としてデビューして間もない頃、初めて自分が担当して被疑者の逮捕状を取得した事件がありました。
事件は、新聞販売店の元配達員による原付バイク(ホンダ・スーパーカブ)の持ち逃げ事件です。
新聞配達に使っていたバイクを元配達員Aが無断で持ち出し、そのまま行方をくらませたという内容でした。店長から相談を受けた私は、まず法律上の判断で悩みました。
これは窃盗罪なのか、それとも横領罪なのか?
刑事になりたての私は判断がつかず、先輩の部長刑事に相談しました。すると返ってきたのは、いかにも現場らしいこんな言葉でした。
「そんなものは、持って行き方次第で変わるんだよ。俺たち盗犯刑事が横領事件やってどうする。どうせやるなら窃盗でいこう」
乱暴に聞こえるかもしれませんが、実際には法律構成の違いの話です。
窃盗と横領の違い|ポイントは“占有”にある
このケースで重要なのは、バイクを誰がどの範囲で管理していたかです。
もし販売店側が、
- 「自由に使わせていた」
- 「仕事以外でも貸していた」
という状況であれば、Aは正当に占有していた物を自分のもののように扱ったことになり、横領罪の可能性が高くなります。
一方で、
- 「新聞配達の業務時のみ使用」
- 「私的利用は禁止」
- 「無断持ち出しだった」
という状況であれば、占有は販売店側にあり、無断で持ち出せば窃盗罪として扱われます。
実際に店長から詳しく事情を聴くと、実態は明らかに後者でした。
そこでその内容に基づいて、
- 被害届の受理
- 供述調書の作成
- 実況見分
- 現場写真の撮影
- 被疑者の所在確認
といった捜査を進め、裁判所に逮捕状を請求したところ、一発で窃盗の逮捕状が発付されました。
原付バイク窃盗でも警察では評価が高い理由
「原付バイク1台で大げさでは?」と思うかもしれません。
しかし警察内部では、バイク盗難は単なる軽犯罪扱いではありません。
これは**乗り物盗(自動車盗)**という分類になり、四輪自動車の盗難と同じカテゴリーで扱われます。
盗犯係の刑事にとって、こうした検挙は決して小さな実績ではありません。
初めて自分で取った逮捕状だったこともあり、私はかなり気合いが入っていました。
福島県まで逮捕に向かった刑事たち
所在捜査の結果、Aは福島県須賀川市の実家に戻っているらしいことが判明しました。
すぐに逮捕の準備が進み、Xデー当日、盗犯係の係長以下4名で捜査車両に乗り込み、東京から須賀川へ向かいました。
首都高速から東北自動車道へ入り、渋滞もなく順調。
須賀川インターまであとわずか。
車内では、
「昼飯食ってからパクるか?」
そんな会話まで出ていました。
ところがその時、係長の携帯電話が鳴ります。
署からでした。
係長は短く応答した後、こう言いました。
「戻るぞ。出口でUターンだ」
全員が「え?」となりました。
警察の“移牒(いちょう)”とは?事件を他署に引き継ぐ仕組み
理由はこうでした。
私たちが須賀川へ向かっている間に、須賀川警察署が別件でAを逮捕していたのです。
しかもAは空き巣事件で逮捕され、その取り調べの中で、
「東京で原付バイクも盗んだ」
と自供したとのこと。
須賀川署からは、
「被害届と捜査書類を移牒してほしい」
という連絡でした。
移牒(いちょう)とは、簡単に言えば、
事件の捜査資料一式を別の警察署へ送り、捜査を引き継いでもらうこと
です。
つまり、私たちの事件は須賀川署の担当になったのです。
刑事の世界で“手柄”になる事件とは
警察内部、とくに盗犯刑事の世界で最も評価が高いのは、
- 空き巣
- 事務所荒らし
- 忍込み
- 侵入窃盗の連続犯
こうした侵入窃盗犯の検挙です。
複数の余罪を持つ空き巣犯を逮捕すれば、
- 刑事部長賞
- 場合によっては警視総監賞
の対象になることもあります。
つまり須賀川署から見れば、Aは“おいしい被疑者”だったわけです。
そして私たちは――
たった数日遅かっただけで、その手柄を完全に持っていかれました。
せっかく苦労して取得した逮捕状も、結局は裁判所へ返納。
私にとっては、刑事人生のスタートで味わった、なんともほろ苦い経験でした。
○警察への告訴状・告発状の作成は元警視庁刑事の行政書士にお任せください。こちら
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。


