警視庁捜査第二課聴訴室MO管理官の話(サバンナの法則)【元刑事が解説】
聴訴室がどういう部署かは以前こちらのサイトでご案内しておりますので興味ある方はご覧になってください。
その聴訴室で勤務していた当時、室長(管理官)のMO警視は、捜査二課内はもちろん、刑事部内でも有名な方でした。いい意味ではなく、「パワハラ」でです。聴訴室の隣には、生活安全部の総合相談センター(警察官のパワハラ被害なども扱う部署)があるのですが、そこの係員が、毎日聞こえてくるMO管理官の怒鳴り声や説教の声を聞いて、心配して声をかけてくるほどでした。
機嫌がいいときは「おい、○○くん、こないだ飲んだ日本酒は美味かったな。また頼むよ。」などと、朗らかに雑談することもありましたが、押し黙っている間が危険でした。MO管理官が無言の間は、約10人いた係員は誰一人MO管理官の気を引かないように一切口を聞きません。うっかり何かしゃべろうものなら、「おい!○○!くだらないことしゃべってないで早く○○事件をまとめろ!」などと怒鳴られ、それを機に次々と質問攻めにあうからです。ですので、MO管理官が、係長以上の幹部会議などで聴訴室内にいない間は、係員同士仲良くしゃべって短いながらとても楽しい時間でした。
MO管理官が会議から戻ってくると非常に危険な時間帯が始まります。MO管理官は他の管理官や係長などの幹部からも嫌われており、さらに他の部署は検挙で仕事の成果を自慢できるのに対し、告訴の受理・不受理しかできない聴訴室には自慢できるネタが何もないのです。こうしたときMO管理官は、ロッカーから「告訴相談受理中一覧表」のファイルを取り出し、ゆっくり見始めます。聴訴室内に緊張の空気が張り詰めます。係員が思っていることは「呼ばれるのが俺以外であってくれ」以外にありません。「おい、淺利」と呼ばれたらお終いです。「はい!」と言って立ち上がります。「先月受けた○○事件の書類持ってこい。」すぐに分厚い書類ファイルを持ってMO管理官の前に立ちます。MO管理官からは、事件概要の質問(既に何度も説明済み)があり、現状何を照会して、何が未照会なのかなどの質問が矢継ぎ早に来ます。前回同じ事件を説明した際に「そんなことやらなくていい!」と言った事項を「何でやってないんだ!」と罵倒されることも珍しくありません。とにかく、絶対に反論は許されません。うっかり「それは前回こう言われたので・・・」などと答えたら最後、3倍くらいになって返ってくるのです。したがってMO管理官に何か言われたら「はい」か「わかりました」しか答えませんでした。そうして立ったまま耐えること1時間ならまだいいほうで、2時間以上に及ぶことも珍しくありませんでした。
私の担当上司だったことがある○○主任は、「おい!○○!お前の説明は嘘ばかりだな。ということは、お前の嫁さんと子供も嘘つきなんだろう!」と言われ、炊事場にある包丁を持ってきてその場で刺し殺そうとしたのをギリギリで思いとどまったと言っていました。
こんな聴訴室に配属されて数ヶ月経った頃、あることに気付きました。係員たちがのびのびしているのは、管理官が会議でいない間であることは既に書きましたが、他にもう一つそうした時間帯があったのです。それは、「自分以外の誰かが呼ばれて質問攻めにあっているとき」でした。私以外の係員が呼ばれて、怒鳴られているとき、他の係員をチラ見すると、皆、のんびり・ゆったり・まったりな表情と雰囲気でいるのです。そのとき私は、昔見たテレビのドキュメンタリー番組を思い出しました。アフリカのサバンナで、いつ肉食獣に襲われるかわからない草食獣たちが一番のんびりと草をはめるのは、「仲間が食われているとき」なのです。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
