立件に非常に苦労した歯科技工士詐欺事件【元刑事のコラム】

 F警察署知能犯係に異動となり、転出した前任者から事件の引き継ぎを受けました。「相談継続中」の事件の中に、この歯科技工士詐欺事件がありました。数ヶ月前に告訴相談を受け、前任者は「○○警備で忙しいので待ってほしい」と保留にし、自分の転出までの時間稼ぎをして、○○警備が終わったにもかかわらず、放置して逃げてしまったのです。弁護士からは「警備が終わったのですから受理してくれますよね」と電話がかかってきました。非常に筋の悪い詐欺事件でしたが、前任者の責任逃れのせいで受理せざるを得ませんでした。
 事件内容は、入れ歯専門の歯科医師と、歯科技工士との間のトラブルになります。この二人は旧知の仲で、20年以上前に知り合ってから、ずっと仮入れ歯の製作・納入で取引を行っていました。ただし、契約書のようなものは一度も交わしたことがなく、20年以上前、取引を始めるに当たって、仮入れ歯1個1万円(金額は事実と異なります)と口頭で定めただけでした。歯科技工士は、歯科医師からの発注を受けて仮入れ歯を製作し、1万円×製作個数として、毎月請求書を上げていました。数年経って、歯科技工士は、材料の高騰などから、ある月から単価を1万5000円に上げて請求書を発行するようになりました。そしてまた数年経って2万円に値上げし、さらに数年経って2万5000円と徐々に単価は上がっていったのです。
 一方で、この歯科医師は数字に疎く、歯科技工士から送られてくる請求書は一度も目を通したことがなく、事務員に任せて請求されるままに振り込み続けていました。しかし、あるとき、税理士から「歯科技工代がとんでもない金額になっている」との指摘を受け、仮入れ歯の請求書をめくったところ、自分では1個1万円だと思っていたのが、いつの間にか5倍くらいにもなっていたのです。すぐに歯科技工士を医院に呼びつけて説明を求めたところ「材料費や人件費が上がったので徐々に値上げしました。院長は了解してくれているものだと思っていました。」と答えました。これには歯科医師はカンカンになり「ずっと信じて仕事を任せてきたのに裏切ったな。俺は一度も値上げの話なんて聞いてないぞ。詐欺だ、訴えてやる!」となった次第でした。
 医師側の了承がない無断の値上げが詐欺になるかどうかは非常に微妙です。毎月きちんと請求書には単価が記載されているからです。しかも、20年間、一度も請求書の内容を見なかった医師の過失も非常に大きいと言わざるを得ません。しかし、告訴状を受理してしまった以上は捜査して検察庁に送致しないとなりません。
 まず、基本方針として逮捕はしない(できない)と考え、歯科技工士を任意で呼んで取調べました。「障害を持つ子供がいて生活費が苦しかった」「院長に無断で値上げしたのは間違いありません」などと、詐欺になるかもしれないという点で、一応は反省しているようでした。そこで、毎週のように警察署に呼んで、告訴事実分の数年間にわたる大量の請求書、発注書に手書きで、無断割り増し金額を記載させました。これには非常に時間がかかり、延時間は100時間を超えたかと思います。水増し金額は確か1000万円を超えたと思います。その後、事件内容を概ね認める被疑者供述調書を作成し、検察庁に書類送致しました。
 その後、本部に異動となりましたが、数年経って調べたところ、やはり、この歯科技工士は不起訴処分となっていました。詐欺といえば詐欺に当たるかもしれませんが、歯科医師の過失が大きすぎますし、歯科技工士の「欺罔行為(騙す行為)」も明確ではなく、検察官も不起訴相当と判断したと思われます。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。

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