警視庁公安部外事一課の「大川原化工機冤罪事件」について その2【元刑事が解説】

2024年8月7日、警視庁は大河原加工機冤罪事件に関する報告書を公表しました。新聞報道では、大河原加工機の社員の方がこの報告書を「70点」と評価していましたが、元警視庁刑事としての私の評価も同程度、あるいはそれ以下です。

報告書には一定の検証がなされているものの、なぜこの冤罪事件が発生したのかという本質的な原因への踏み込みが不足していると感じました。特に、事件の舞台となった警視庁公安部外事一課の組織風土や内部事情についての分析は極めて限定的です。この部分に深く踏み込めば、組織そのものの責任問題に発展しかねないため、意図的に回避された印象すら受けます。

報告書で見えた警視庁公安部外事一課の実態

今回の報告書で新たに判明したのは、問題となった警視庁公安部外事一課第五係の管理体制です。

この係には、

  • 警視の管理官1名
  • 警部の係長1名

が配置されていました。

しかも両名とも、巡査部長・警部補・警部といった階級時代に同じ係で勤務経験があったとのことです。

警察内部では、このように一度異動した後、昇任して再び元の部署へ戻ることを**「出戻り」**と呼びます。これは、その分野における専門性を組織が高く評価している証拠でもあります。

警視庁では、こうした特定分野に突出した能力を持つ人物を非公式に

  • 職務質問の神様
  • 指紋の神様
  • 選挙の神様
  • ヤミ金の神様

などと呼ぶことがあります。

さらに、優秀な警察官は警察庁指定の広域技能指導官となり、全国の警察で専門分野の指導を担当することもあります。

今回の報告書には、この2人が広域技能指導官だったかどうかの記載はありません。しかし、警視庁は全国の警察組織の中でも唯一、独立した公安部を持ち、外為法違反事件の摘発件数でも突出した実績があります。

そう考えれば、この係のトップであった管理官が

「外為法違反捜査について自分が日本で最も詳しい」

という強い自負を持っていたとしても不思議ではありません。

警察組織に存在する「神様型幹部」の危険性

警察組織には、専門分野に精通した「神様」と呼ばれる幹部が存在します。しかし、このタイプには大きく2種類あります。

1.部下の意見を聞ける優秀な幹部

このタイプは、

  • 昇進しても傲慢にならない
  • 部下の意見に耳を傾ける
  • 協調性がある
  • 組織全体で成果を出そうとする

という特徴があります。

専門性が高くても人格面のバランスが取れており、組織にとって非常に有益な存在です。

2.権威に酔って暴走する幹部

一方で危険なのがこちらです。

  • 警部になった途端に人格が変わる
  • 自分が絶対に正しいと思い込む
  • 部下の進言を無視する
  • 上司の意見すら聞かない
  • 自分のやりたい捜査を強引に押し通す

報告書を読む限り、大河原加工機冤罪事件の外事一課第五係の幹部は、こちらの典型だったように見えます。

元警視庁刑事が見た「暴走する上司」の実例

私自身、警視庁生活経済課で、このタイプの幹部に仕えた経験があります。

その上司も元刑事でしたが、パワハラ・モラハラ問題を起こし、本来の刑事部門に戻れなくなっていました。結果として、知人の幹部のいる部署に異動してきたのです。

しかし着任直後から、

  • 自分のやりたい事件ばかり進める
  • 捜査手法を一方的に押し付ける
  • 部下の意見を完全に無視する

という状態でした。

当然、現場は大混乱となり、部下たちは幹部へ直訴。その結果、この上司は実質的に職務を外され、課内の空席に一人座るだけの状態となりました。仕事を与えられず、終日読書をしていたのを覚えています。

その後、警察署へ異動しましたが、若手警察官への暴力問題を起こし、警部から警部補へ降格となりました。

大河原加工機冤罪事件の本当の原因は「組織」と「人」

大河原加工機冤罪事件の原因は、単なる組織の仕組みの問題ではありません。

もちろん、

  • 公安部という閉鎖的な組織文化
  • 専門部署の過度な独立性
  • 外部からのチェック機能不足

といった構造的問題はあります。

しかし、それ以上に大きいのは**「人」の問題**です。

警察は厳格な階級社会であり、警部以上になると実質的な幹部となります。その結果、一部には権限を持ったことで傲慢になり、現場の声を無視する人物も出てきます。

現在も「降格制度」はありますが、実際に適用されるのは刑事事件レベルの重大問題が起きた場合がほとんどで、運用は極めて限定的です。

もし警察組織の自浄作用を本気で高めるのであれば、

問題行動のある幹部に対し、より柔軟に降格制度を適用する仕組みが必要ではないでしょうか。

まとめ|冤罪を防ぐには幹部の暴走を止める仕組みが必要

大河原加工機冤罪事件は、単なる捜査ミスではありません。

専門性への過信、閉鎖的な組織文化、そして幹部の暴走。

これらが重なった結果、生まれるべくして生まれた冤罪とも言えます。

冤罪防止のために必要なのは、制度改革だけではありません。

「偉くなった人ほどチェックされる組織」への転換こそ、本当の再発防止策だと考えます。

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淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。

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