犯罪になりそうで犯罪にならない行為を元刑事が解説

「これって絶対に犯罪になるでしょ」と思われがちな行為でも、刑法上は犯罪が成立しないケースがあります。
もっとも、状況によっては別の犯罪に該当したり、民事上の損害賠償責任を負う可能性はありますので、決して推奨される行為ではありません。

この記事では、実際によく誤解される「実は犯罪にならないケース」について、刑法の考え方を踏まえてわかりやすく解説します。


1.履歴書の学歴詐称は文書偽造罪になるのか?

例えば、本当は高卒なのに、履歴書に「東京大学法学部卒業」と記載して企業へ提出した場合、多くの人は「有印私文書偽造罪になるのでは?」と考えるでしょう。

しかし、氏名欄を本名で正しく記載している場合、通常は有印私文書偽造罪にはなりません。

文書偽造罪が成立する条件

文書偽造罪は、「作成名義を偽ること」で成立します。

つまり、

  • 本当は「山田太郎」なのに「鈴木一郎」と記載する
  • 他人名義で履歴書を作成する

このようなケースでは文書偽造罪が成立します。これを「有形偽造」といいます。

一方、

  • 氏名は本名
  • 学歴や職歴だけが虚偽

という場合は、「無形偽造」と呼ばれ、原則として文書偽造罪には該当しません。

手紙を書いても文書偽造にならないケース

文書偽造罪の対象は、「権利・義務・事実証明に関する文書」です。

そのため、他人になりすまして私的な手紙を書いたとしても、権利義務に関係しない内容であれば、通常は文書偽造罪には該当しません。


2.倒れている人を助けなくても犯罪にならない?

道端で人が倒れていたり、川で溺れて助けを求めている人を見ても、関わりたくないとして立ち去った場合、道義的には強い非難を受けるでしょう。

しかし、一般人には法律上の救助義務がないため、通常は犯罪にはなりません。

保護責任者遺棄罪になるケース

刑法上の「保護責任者遺棄(致死)罪」が成立するのは、保護義務のある立場の人です。

例えば、

  • 親と子ども
  • 教師と生徒
  • 雇用主と従業員

などが該当します。

交通事故の場合は別

交通事故を起こした運転者が救護や通報をせず逃走した場合は、「ひき逃げ」として道路交通法違反になります。


3.SNSでハンドルネーム相手を「前科者」と書いても名誉毀損にならない?

SNS上で、ハンドルネームしか知らない相手に対し「前科者」などと投稿した場合でも、必ずしも名誉毀損罪や侮辱罪は成立しません。

名誉毀損罪の成立条件

名誉毀損罪には、主に次の3要件があります。

  • 公然性
  • 個人の特定
  • 社会的評価を低下させる表現

SNS投稿は通常「公然性」を満たしますし、「前科者」という表現も社会的評価を下げる内容です。

しかし、相手が単なるハンドルネームだけで、現実の人物として特定できない場合、「個人の特定」が認められないことがあります。

IDや属性だけでは特定にならない場合も

例えば、

  • ハンドルネーム
  • ID
  • アカウント名
  • 「関西人」
  • 「料理人」

といった抽象的表現だけでは、通常、個人特定性は認められにくいです。


4.親族間の窃盗・詐欺は処罰されない?

刑法には「親族相盗例」という規定があります。

処罰が免除されるケース

以下の関係では、窃盗罪・詐欺罪・横領罪などが刑法上免除されます。

  • 夫婦間
  • 直系血族間(親子・祖父母・孫など)

そのため、これらの関係では、被害届や告訴状を提出しても受理されないケースがあります。

直系血族とは?

直系血族とは、

  • 祖父母
  • 父母

のように、縦一直線につながる血縁関係を指します。


5.飲食店で「レジが無人だったので払わず帰った」は詐欺罪?

一般には「食い逃げ」と呼ばれる行為です。

しかし、

  • 最初は支払う意思があった
  • 普通に注文した
  • 飲食後にレジへ行った
  • そこで初めて「払わず逃げよう」と考えた

というケースでは、刑法上の詐欺罪(無銭飲食)が成立しない場合があります。

詐欺罪に必要な「欺罔行為」がない

詐欺罪には、相手を騙す「欺罔(ぎもう)行為」が必要です。

最初から無銭飲食するつもりで注文したのであれば詐欺罪になり得ますが、後から気が変わっただけでは、欺罔行為が存在しないため、刑事事件にならない場合があります。

もっとも、飲食代金の支払い義務は当然に残ります。


6.呪いで人を殺そうとしても殺人未遂にならない?

「呪い」や「まじない」で相手を殺そうとした場合、刑法上は「不能犯」とされ、通常は犯罪になりません。

不能犯とは?

不能犯とは、

  • 本人には犯罪の故意がある
  • 本人は本気で実行した
  • しかし結果発生の可能性がゼロ

というケースです。

丑の刻参りも不能犯

昔から有名な「丑の刻参り」も、一般には不能犯の例として説明されます。


7.故意がなければ犯罪は成立しない

刑法38条では、原則として「故意」がなければ犯罪は成立しないとされています。

具体例

例えば、

  • 他人のスマホを自分の物と思い持ち帰った
  • 他人の自転車を自分の物と勘違いして乗って帰った
  • 背伸びした腕が偶然他人に当たった

このようなケースでは、窃盗罪や暴行罪の故意がないため、通常は犯罪になりません。

過失犯には注意

ただし、

  • 過失傷害罪
  • 過失致死罪
  • 失火罪

など、「過失」でも成立する犯罪があります。

故意がなくても処罰対象になるため注意が必要です。


まとめ|「違法」と「犯罪」は必ずしも同じではない

世の中には、

  • 道義的には問題がある
  • 民事責任は発生する
  • 損害賠償請求される可能性がある

にもかかわらず、刑法上は犯罪にならないケースが存在します。

刑法では、

  • 故意の有無
  • 個人特定性
  • 欺罔行為
  • 保護義務
  • 実行可能性

など、細かな成立要件が重視されるためです。

もっとも、「犯罪にならない可能性がある」からといって許される行為ではありません。実際の事案では事情によって判断が大きく変わるため、トラブルになった場合は弁護士など専門家へ相談することをおすすめします。

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淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
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告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
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「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
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