犯罪になりそうで犯罪にならない行為を元刑事が解説

 「これをやったら犯罪だろうな」と思われがちな行為が実は犯罪にならないケースがあります。以下に例を上げますが、状況によってはその他の罪名の犯罪に該当したり、民事の損害賠償請求を受けることがありますので、やることは絶対におすすめしません

1.履歴書の学歴等を偽る

 例えば、本当は高卒なのに、履歴書に「東京大学法学部卒業」と記載して求職企業に提出した場合、有印私文書偽造罪・同行使罪になるでしょうか? 正解は、氏名を正しく本名で記載した場合にはなりません。これは、私文書偽造罪は、「作成名義を偽った場合」に成立する犯罪だからです。つまり、本当は「山田太郎」なのに、履歴書の氏名欄に「鈴木一郎」と記載した場合は、その他の欄に全て正しい記載をしても、文書偽造となります。これを「有形偽造」と言います。反対に氏名欄に「山田太郎」と正しく記載した場合は、その他の欄に全て虚偽を記載しても文書偽造になりません。これを「無形偽造」と言います。ちょっと納得いかないと思う人がいるかもしれませんが、言葉で幾ら嘘を言っても処罰されないことを考えるとわかりやすいかもしれません。なお、どのような文書が文書偽造罪の対象になるかは、「権利・義務・事実証明に関するもの」とされています。したがって、「山田太郎」が「鈴木一郎」になりすまして、「鈴木一郎」の名前で「鈴木一郎」のお母さんに手紙を書いて「お母さん元気ですか? 風邪などひいていませんか? お気を付けてください。」と記載して送ったとしても、何らの権利・義務・事実証明にもなっていないので、文書偽造罪には当たりません。

2.道で倒れている人や川でおぼれている人を見てみないふりをして立ち去る

 外を歩いていて、知らない人や顔見知りの近所の人などが倒れて頭から血を流していたり、川でおぼれて助けを求めている場合、関わり合いになりたくないと、見て見ぬふりして救助や119番等しないで立ち去った場合です。道義的には非難されることでしょうし、そのまま亡くなられたような場合は遺族に民事で訴えられる可能性はありますが、犯罪とはなりません。このような場合で、「保護責任者遺棄(致死)罪」に該当して処罰されるのは、倒れたりおぼれたりしている人に対して「保護する責任がある立場の者」とされています。具体的に言えば、子どもに対する親、生徒に対する教師、従業員に対する雇用主などが上げられます。交通事故の場合で、通報せず、けが人を救護せずに逃げた場合は、同罪ではなく、道交法のひき逃げとなります。

4.SNS上でハンドルネームしか知らない相手を前科者呼ばわりした

 名誉毀損罪や侮辱罪が成立する条件は、「公然性」「個人の特定」「個人の社会的評価を低下させるような言動・表現」となります。誰でも見ることができるSNS上の書き込みは「公然性」を充足します。「前科者」という表現も「個人の社会的評価を低下」に該当します。しかし、ハンドルネームでは、通常、どこの誰かはわからず、「個人の特定」がされているとは言えず、名誉毀損罪も侮辱罪も成立しません。ハンドルネーム以外でもIDやアカウント名、「関西人」「料理人」といった表現でも「個人特定」には当たりません。

5.夫婦間・直系血族間の窃盗罪、横領罪、詐欺罪、背任罪、恐喝罪、不動産侵奪罪

 直系血族とは、祖父母~両親~子ども・・・・・とつながる縦一直線の関係です。これらの関係にあれば、同居・別居を問わず、タイトルの犯罪は絶対的に免除されるため、警察に被害届や告訴状を出そうとしても絶対に受理されません

6.飲食店で食事が終わりお金を払おうとレジに行ったら誰もいないのでそのまま逃げた

 これ、一般用語の「食い逃げ」に該当することは誰にもわかると思いますが、刑法上の詐欺罪(無銭飲食)には該当せず、被害届も告訴状も提出することはできません。事例の場合、客はお金を持っており、支払うつもりで注文し、飲食物の提供を受けてこれを食べています。そしてレジにお金を払いに行き、そこで初めて「払わないで逃げよう」と思いつき、逃げています。一連の行為の中に、詐欺罪成立に必要な「欺罔(だます)行為」がどこにもありません。よって、飲食代金未払いという民事上の支払い義務は残りますが、刑法上の処罰は受けないことになります。

7.呪い行為による殺人未遂

 ○×教の熱心な信者であるAは、かねてから敵対関係にあるBを殺害しようと考え、自分が信じる○×教の相手を呪って殺害するまじない行為を1年間にわたって続けた場合。このように、行為者には犯罪の故意があり、自分が有効と信じる方法によって実行行為に移した場合であっても、「結果発現の可能性が全くのゼロ」である場合は、「不能犯」として犯罪になりません。
 「丑の刻参り」が例えとしてよく取り上げられますが、最近の若い人はご存じでしょうか? 深夜、神社の立ち木などに、相手の髪の毛などを入れたわら人形に五寸釘を刺してトンカチなどで叩くやつです。昭和中期頃までは、実際にやっている人が結構いたという話を昔聞いた記憶があります。

8.犯罪を犯そうとする故意がない行為

 刑法38条により、「故意(犯意)がない行為は処罰されない」となっています。具体例を挙げれば、「飲食店で隣に座っていた人のスマホを自分のものと思ってバッグに入れて持ち帰ってしまった」「自分の自転車だと思って色や形の似た他人の自転車を乗って帰ってしまった」「あくびをしながら背伸びをしたら、伸ばした腕が後ろにいた人に偶然当たってしまった」などになります。これらは、故意があれば窃盗罪や暴行罪になりますが、故意がなければ犯罪となりません。注意が必要なのが「過失罰」規定がある犯罪です。「過失傷害罪」「過失致死罪」「失火罪」などは、刑法38条の例外として、「故意」が無くても犯罪が成立し、処罰を受けることになります。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。

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