詐欺罪が刑法の中で最も立件が難しいと言われる理由
被害者が存在する刑法犯には、強盗、暴行、傷害、恐喝、脅迫、性犯罪、名誉毀損、器物損壊、窃盗、横領等多々ありますが、どの犯罪にも共通なのは、被害を受けた被害者は、即座に身体や心の痛み、恐怖感、喪失感、絶望感、不快感といった強いダメージを受けるということです。しかし、詐欺罪だけは特別で、犯罪直後の被害者はそうしたダメージを感じないばかりかむしろ「良い取引ができて良かった」と喜ぶことすらあります。さらに、強盗、窃盗、横領、恐喝といった財産犯は、どれも無理矢理または被害者の同意なく金品を奪われるのに対し、詐欺罪の場合は被害者が自ら進んで財物(又はサービス)を犯人に渡すのです。もちろん、最終的には被害者は騙されたことに気付き、先に挙げたようなダメージ感を受けるのですが、それは相当日数が経った後なのが普通です。
そうした詐欺罪の特殊性から、捕まった詐欺犯人が必ずといっていいほど言う言い訳が「被害者は同意の上だった。俺は騙していない。」です。経験上言えるのですが、詐欺犯人が否認する割合は、他の罪種と比べて圧倒的に高いと感じます。特に会社ぐるみの詐欺事件の場合は、正当な販売業務であったことを殊更に主張します。実際、旧来からの商習慣において、大げさな表現や、だまし合いといった駆け引きは当然に行われています。身近なところでは、八百屋が酸っぱいミカンを「甘いよ」と言って売ったり、魚屋が鮮度の落ちた魚を「生きがいいよ」と言って売ったり、自動車セールスマンが本当はまだ5万円値引きできるのに「もうこれ以上は1円も引けません。」などと言うのが詐欺には問われないのがその例です。また、騙すのは売るほうだけではなく、客側も「近くの○○電気に行ったらここより1万円安かった(本当は同じ値段なのに)」などと店員を騙して値引きさせようとするケースもありますが、これも商品売買上の駆け引きであり、警察に相談しても詐欺罪としては取り扱ってくれません。
では、こうした商習慣上の駆け引きと詐欺罪はどこで線引きしたらいいのでしょうか? 正解は「ありません」です。ボーダーライン周辺にグレーゾーンがあり、どちらに属するかは個別案件ごとに判断するしかありません。だから詐欺罪は「刑法犯の中で最も立件が難しい」と言われるのです。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。