詐欺罪が刑法の中で最も立件が難しいと言われる理由とは?【元知能犯刑事が解説】
詐欺罪と他の刑法犯の違い
刑法において被害者が存在する犯罪には、強盗、暴行、傷害、恐喝、脅迫、性犯罪、名誉毀損、器物損壊、窃盗、横領などさまざまなものがあります。これらの犯罪に共通しているのは、被害者が即座に身体的または精神的なダメージを受けることです。被害者は恐怖感、喪失感、絶望感、不快感などを強く感じることがほとんどです。
しかし、詐欺罪は他の犯罪とは異なり、被害者が犯罪直後にはダメージを感じないことが多いのが特徴です。むしろ、「良い取引ができた」と満足感を得るケースすらあります。さらに、強盗や窃盗、横領、恐喝といった財産犯は、無理矢理または被害者の同意なく財産を奪われるのに対し、詐欺罪の場合は被害者自身が自発的に財産やサービスを提供する点が大きな違いです。
詐欺罪が立件されにくい理由
1. 被害者がすぐに被害を自覚しない
最終的には被害者も騙されたことに気付きますが、それが明らかになるまでに時間がかかることが多いです。この時間差が、警察の捜査や立件を困難にする要因となります。
2. 詐欺犯の否認率が高い
詐欺事件では、犯人が「被害者の同意があった」「騙していない」と否認するケースが非常に多いです。特に会社ぐるみの詐欺事件では、「正当な営業行為であった」と主張し、違法性を否定する傾向が極めて強いです。
3. 商習慣との境界が曖昧
商取引の場では、多少の誇張表現や駆け引きが一般的に行われています。例えば、八百屋が酸っぱいミカンを「甘い」と売ったり、魚屋が鮮度の落ちた魚を「新鮮」と宣伝したりすることがあります。また、自動車販売店では「これ以上値引きできません」と言いながら、実際にはまだまだ値引きできることが珍しくありません。
さらに、顧客側が「他店ではもっと安かった」と偽り、値引きを引き出そうとすることもありますが、これも商習慣上の駆け引きの一部とみなされ、通常は詐欺罪として扱われません。
詐欺罪と商習慣の線引きは?
詐欺罪と商習慣の違いを明確に定義することは非常に難しいです。どこまでが合法な駆け引きで、どこからが詐欺に当たるのか、その線引きには明確な基準がなく、個別の案件ごとに判断するしかありません。そのため、「詐欺罪は刑法犯の中で最も立件が難しい」と言われるのです。
4.犯行が計画的なことが多い
詐欺師は頭が良いことが多く、また犯行前に入念に計画を練って準備するのが普通です。したがって、被害者が被害にあったことに気付いたときには、既に騙し取られた金品は取り返すことができなくなっており、証拠も残っていないということが珍しくありません。
まとめ
詐欺罪は、被害者が最初に被害を自覚しにくいこと、犯人が否認しやすいこと、商習慣との区別が曖昧であることから、刑法犯の中でも立件が極めて困難な犯罪です。このような特性を理解し、日頃から詐欺被害を未然に防ぐ意識を持つことが重要です。
旧記事
被害者が存在する刑法犯には、強盗、暴行、傷害、恐喝、脅迫、性犯罪、名誉毀損、器物損壊、窃盗、横領等多々ありますが、どの犯罪にも共通なのは、被害を受けた被害者は、即座に身体や心の痛み、恐怖感、喪失感、絶望感、不快感といった強いダメージを受けるということです。しかし、詐欺罪だけは特別で、犯罪直後の被害者はそうしたダメージを感じないばかりかむしろ「良い取引ができて良かった」と喜ぶことすらあります。さらに、強盗、窃盗、横領、恐喝といった財産犯は、どれも無理矢理または被害者の同意なく金品を奪われるのに対し、詐欺罪の場合は被害者が自ら進んで財物(又はサービス)を犯人に渡すのです。もちろん、最終的には被害者は騙されたことに気付き、先に挙げたようなダメージ感を受けるのですが、それは相当日数が経った後なのが普通です。
そうした詐欺罪の特殊性から、捕まった詐欺犯人が必ずといっていいほど言う言い訳が「被害者は同意の上だった。俺は騙していない。」です。経験上言えるのですが、詐欺犯人が否認する割合は、他の罪種と比べて圧倒的に高いと感じます。特に会社ぐるみの詐欺事件の場合は、正当な販売業務であったことを殊更に主張します。実際、旧来からの商習慣において、大げさな表現や、だまし合いといった駆け引きは当然に行われています。身近なところでは、八百屋が酸っぱいミカンを「甘いよ」と言って売ったり、魚屋が鮮度の落ちた魚を「生きがいいよ」と言って売ったり、自動車セールスマンが本当はまだ5万円値引きできるのに「もうこれ以上は1円も引けません。」などと言うのが詐欺には問われないのがその例です。また、騙すのは売るほうだけではなく、客側も「近くの○○電気に行ったらここより1万円安かった(本当は同じ値段なのに)」などと店員を騙して値引きさせようとするケースもありますが、これも商品売買上の駆け引きであり、警察に相談しても詐欺罪としては取り扱ってくれません。
では、こうした商習慣上の駆け引きと詐欺罪はどこで線引きしたらいいのでしょうか? 正解は「ありません」です。ボーダーライン周辺にグレーゾーンがあり、どちらに属するかは個別案件ごとに判断するしかありません。だから詐欺罪は「刑法犯の中で最も立件が難しい」と言われるのです。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。


