警察用語について

 警察官が仕事で使う用語について、一般の方が知らなかったり、誤用している例があるので、いくつかここで紹介したいと思います。

 被害届
 被害届は、何らかの犯罪被害にあった方が、警察にその内容を届け出る書類です。根拠は犯罪捜査規範第61条です。刑訴法には一切言及ありません。個人でも作成することはできますが、ある程度決まった書き方があるので、被害者の話を聞いた上で、警察官が作成(代書)することがほとんどです。完成後は内容を確認の上、被害者が署名と押印します。印鑑は、署名欄に1箇所と、2枚綴りになっているので割り印を1箇所、計2箇所に押します。印鑑は実印でなくても可ですが、いわゆるシャチハタというゴム印は不可です。なぜシャチハタがダメかは、複数理由がありますが、型枠による大量生産のため、同じ印鑑が大量に複数あること、朱肉ではなくインクのため、長時間経つと滲んでしまうことなどがあります。印鑑が無い場合は、代わりに指印で代用します。被害届には、一般用、万引き用、自転車・バイク用と3種類あります。被害届の提出によって、原則的には、警察は捜査義務を負いますが、送致義務は発生しないので、犯人がわからない場合は、そのままになってしまいます。犯人の処罰を明確に求める手続ではないため、親告罪(過失傷害、名誉毀損、器物損壊等)については、告訴状を提出しないと検察官が犯人を起訴することができません。
 被害届は、刑法犯被害について提出するものなので、車にひかれた、追突されたなど、交通事故でケガをされたとしても、提出することはできません。

 告訴
 告訴は、犯罪による被害者(告訴権者)が、犯人の処罰を捜査機関に求める手続を言います。警察が受理した場合、何があっても必ず事件を検察庁に送致(送付)しないとなりません。送致を受けた検察官は、起訴か不起訴かの決定をしますが、その結果については、告訴人に通知する義務があります。

 告発
 告発は、犯罪について、被害者以外の第三者が、捜査機関に犯人の処罰を求める手続です。公務員の場合は、自らの職務を遂行するに当たり、その職務に関連した犯罪を認めたときは、告発する義務があります。告訴同様に検察官は処分結果について告発人に通知義務があります。

 警察庁
 警察庁は、都道府県警をとりまとめ、通達を発したり、他官庁との連携をとるなど、警察行政を取り仕切る期間であり、特定の犯罪捜査や、交通取締などは行いません。職員は警察官ではありますが、制服を着て外に出ることはありません。

 逮捕
 逮捕には三種類あります。現行犯逮捕は、犯罪の発生直後(30~40分程度)に逮捕することを言います。警察官だけでなく一般人でも可能ですが、犯罪ではない行為で逮捕してしまった場合は、刑法の逮捕罪の罪に問われる可能性があります。通常逮捕は、警察が裁判所に逮捕状の発付を求めて請求し、発付を得たならそれを被疑者に提示して逮捕することを言います。緊急逮捕は、一定の重い罪について、裁判所に逮捕状の請求をしていては被疑者に逃亡されてしまうような場合に、令状主義の例外として、事後速やかに逮捕状を請求する条件で逮捕することを言います。実際に行われることは珍しく、一つの警察署で年間数回程度です。

 前科・前歴
 前科は、有罪の確定判決を受けた回数を言います。したがって、逮捕されても、不起訴となったり、無罪となった場合には前科にはなりません。懲役の判決はもちろん、執行猶予や罰金、科料であっても前科になります。
 前歴は、何らかの犯罪を犯し、警察で微罪処分又は送致されたことを言います。ケンカをして相手を殴り、警察署に任意同行されたが、和解して被害届を出さず、送致されなかった場合は前歴になりません。万引きなどでも同様です。

 微罪処分
 軽微な犯罪をした者が、犯罪歴が全くないか前回から10年以上経っている場合に限り、事件を送致しないで、警察での説諭処分で終わらせる手続です。被害者に処罰の意思がないことが前提になります。

 自首
 既に行われた犯罪について、捜査機関がその発生自体を知らないか、発生は認知しているが犯人が誰か全くわかっていない段階で、被疑者が自ら出頭することを自首と言います。犯人が誰かわかっている場合は、単なる任意出頭で自首には当たりません。自首した場合、刑罰は必ず軽減されなくてはなりません。

 証拠
 証拠というと、物(物質)をイメージする人が多いと思いますが、参考人や目撃者の供述(証言)も証拠ですし、防カメ画像、メール、電話の発着信履歴、指紋、足跡なども証拠です。証拠は、その収集方法・手段が重要であり、違法性ありと裁判官に判断されると証拠価値はゼロとなります。

 故意(犯意)
 刑法第38条の規定により、故意のない行為は罰せられません。例えば、机に置いてあったスマホを自分のものだと思ってうっかりカバンに入れてしまったり、飲食店で手が滑ってグラスを割ってしまったような場合です。例外として、法律の条文に「過失規定」がある犯罪に限り、故意がなくても罰せられる罪があります。過失傷害罪や失火罪、過失運転致死傷罪などがあります。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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