勾留と拘留、科料と過料

 刑事手続や罪名などの法律用語等には、同音異義語や紛らわしい用語が少なくありません。刑法の改正で器物毀棄罪→器物損壊罪、誣告罪→虚偽告訴罪など、わかりにくい罪名が変更されている例もありますので、法務局の方々にはこれから挙げる分かりにくい用語を何とかしてもらいたいなと思います。

 勾留と拘留
 これは発音が全く同じ上に漢字もよく似ています。どちらも人の身体を拘束することを言いますが、実はかなり違います。勾留は、逮捕された後、そのまま身体を拘束される状態のことを言います。警察官に逮捕され、検察官に送致されるまでの48時間を「逮捕勾留」と呼びます。送致後、検察官が裁判官に勾留請求し、認められた以降の拘束を単に「勾留」と言います。これは送致日を含めて10日間で、さらに10日間の延長が認められます。検察官はこの期間内に起訴から不起訴かを決定し、起訴となれば自動的に勾留が続きます。これ以降を「起訴勾留」と呼びます。「勾留」は全て判決が下されて確定する前の段階です。後述するように、判決が確定すると「勾留」ではなくなります。
 拘留は、懲役、禁固と並ぶ身柄を拘束する刑罰の一つです。拘留は3つの中で一番軽く、1日以上30日未満、刑事施設に身柄を拘束される刑罰です。日にちは短いですが、前科1犯になります。

 科料と過料
 これも発音は全く同じ「かりょう」です。科料は、罰金と同じ刑事罰の一つです。異なるのは金額で、罰金は1万円以上、科料は千円以上1万円未満です。科料の金額は非常に安いですが、刑事罰の一つなので、確定すれば前科1犯になります。過料と区別するため「とがりょう」と読むことがあります。
 過料は、行政罰です。金額の定めはありません。身近なところでは、路上喫煙の条例違反で役所から請求される場合です。刑事罰ではないため、前科にはなりません。交通違反の反則金と同じようなものです。科料と区別するため「あやまちりょう」と呼ばれることがあります。

 詐欺と詐偽投票
 どちらも頭2文字は「さぎ」と読みます。微妙に漢字が異なります。「詐欺」は人をだましてお金やサービスの交付を受ける行為です。詐偽投票は、公職選挙法で処罰される行為で、他人の投票券などを不正に入手するなどして、その人になりすまして投票場で投票する行為です。

 被疑者と被害者
 これはおわかりになるかと思いますが、字面が似ているため文中に何度も交互に出てくると一瞬どっちがどっちだか混乱することがあります。マスコミでは、混乱を避けるため、被疑者を容疑者と呼び変えて使っています。「被疑者」の定義は、捜査対象者であって起訴されるまでの人を言います。起訴後は「被告人」と呼び方が変わります。民事裁判の「原告」「被告」も同様にわかりにくい言葉です。

 送致と送付
 どちらも警察等が事件を検察庁に送ることを言います。「送付」とは、告訴・告発事件を被告訴人(被告発人)を逮捕せず、書類だけ送ることを言います。それ以外は全て「送致」です。これもマスコミでは「送検」と言い換えて使っています。

 脅迫と恐喝
 漢字は異なりますが、読み方が似ています。犯罪の内容としては、言葉で「脅す」の脅迫で、脅迫して金品を交付させるの恐喝です。手書きで書こうとすると恐泊や脅喝と書こうとしてしまうことがあるのは私だけでしょうか。

 警察官と検察官 刑事と検事
 漢字は似ていないので文字で書いた場合は混同しませんが、電話ではよく聞き間違われる言葉です。特に耳が遠くなった高齢者に「検察官(検事さん)のところに行ってください」と言うと相手には「警察官(刑事さん)」と聞こえることが多いです。

 警察庁と検察庁
 これも漢字で書くと違いはわかりやすいのですが、やはり電話でよく聞き間違われます。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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