「告訴するぞ」は脅迫罪になるか?

 犯罪被害者が加害者に対し「警察に通報するぞ」「被害届を出すぞ」「告訴するぞ」と言ったり、お金を返さない相手に「返さないなら訴えるぞ」「裁判にするぞ」などと言うことがよくあります。脅迫罪は、相手に対して害悪の告知を行うことで成立します。「害悪の告知」とは
   生命に対する害悪 ~「殺すぞ」
   身体に対する害悪 ~「殴るぞ」
   自由に対する害悪 ~「ここから出さないぞ」
   名誉に対する害悪 ~「裸の写真をばらまくぞ」
   財産に対する害悪 ~「車燃やすぞ」
になります。これらは限定列挙とされているため、これに該当しない場合は、脅迫罪になりません。例えば、「死んでやる」と自死をほのめかした場合などです。
 さてタイトルの「告訴するぞ」の件ですが、正当な権利行使の予告または警告であり、一見脅迫罪にならないようにも思われます。これには古いのですが有名な判例があります。大正3年12月1日大審院判決で「誣告ヲ受ケタル者カ眞ニ誣告罪ノ告訴ヲ爲ス意思ナキニ拘ハラス誣告者ヲ畏怖セシメル目的ヲ以テ之ニ對シ該告訴ヲ爲ス可キ旨ノ通告ヲ爲シタリトスレハ固ヨリ權利實行ノ範囲ヲ超脱シタル行為ナルヲ以テ脅迫ノ罪ヲ構成ス可キハ疑ヲ容レス」とあります。旧字体でわかりにくいのですが、要約すると「本当は告訴する意思がないのに、相手を畏怖させる目的で告訴すると通知した場合は、権利実行の範囲を超えており脅迫罪になり得る。」となります。つまり、告訴する予定があって「告訴する」と言えば違法性はなく、告訴する意思も予定もないのに「告訴する」と言えば脅迫罪になるということになります。しかし、実務上、「告訴する」と言った時点で、言った本人に告訴する意思があったかなかったかを立証することは不可能に近いと思います。この大審院で判決を出した裁判官にあの世で会う機会があったら、その辺をどう考えて判決したのか聞いてみたいところです。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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