【警察の告訴状】物的証拠なしでも受理される?詐欺事件の実例を元刑事が解説

物的証拠がないと警察は告訴状を受理しない?

「証拠がないと警察は動かない」と思われがちですが、物的証拠がなくても告訴は可能です。実際に、証拠が乏しい詐欺事件でも警察の捜査次第で犯人を逮捕し、有罪判決に持ち込めた事例があります。

【実例】医師を名乗る詐欺師を逮捕したケース

私が刑事時代に担当した事件では、建設会社の社長が「国境なき医師団の医師」を名乗り、スナックの経営者(被害者)から1,000万円を騙し取ったケースがありました。

【詐欺の手口】

  • 「海外の難民治療で資金が不足している」と嘘をつく
  • 被害者は本物の医師だと信じ、尊敬していたため、指定口座に1,000万円を振り込んだ
  • その後、詐欺師は突然店に来なくなり、連絡も取れなくなる

物的証拠なしで逮捕できた理由

この事件では、以下のような方法で証拠を集めました。

  1. 目撃証言の収集
    • 常連客が「詐欺師が医師だと話していた」と証言
    • 供述調書を作成
  2. メールの解析
    • 被害者のスマホからメールデータを抽出
    • 「アフガニスタンで治療中」との詐欺師の発言を確認
  3. 送金先の追跡
    • 1,000万円の送金履歴を調査
    • 詐欺師の口座から下請け業者へ送金されたことを特定
  4. 警察と検察の連携
    • 検事と相談し、追加捜査の指示を受ける
    • 最終的に逮捕・送致し、有罪判決を獲得

【結論】物的証拠なしでも警察は動く!

このように、詐欺事件は証拠が乏しくても捜査の工夫次第で立件可能です。もし警察に「物的証拠がないから告訴できない」と言われた場合、以下を試してください。

目撃者の証言を集める
メールやLINEのやりとりを保存する
送金履歴などの間接証拠を揃える

旧記事
 警察の告訴状受理のハードルは高いと言われますが、物的証拠が無くても告訴は可能です。

 私自身、刑事時代にこんな事件の告訴を受け、犯人を逮捕して懲役に行っていただきました。犯人は建設会社の社長で、被害者が経営するスナックに「国境なき医師団の医師」だと言って通っていました。被害者や周囲の常連客に、医師として海外で難民の治療に当たっているなどの話をしてすっかり医師だと思い込ませていました。あるとき犯人が来店した際、「国境なき医師団の海外活動での資金が一時的に不足して困ってる。すぐに返すので1,000万円貸してくれないだろうか」と言われ、本物の医師だとすっかり信じて尊敬していた被害者は、犯人の指定した口座に1,000万円を振り込んでしまいました。ところがその後犯人は突然店に来なくなり、電話にも出なくなったので調べたところニセ医者だとわかり、警察に相談に来たのでした。
 私が日本医師会と国境なき医師団の日本支部に照会したところ、犯人は医師免許を持っておらず、国境なき医師団の医師でも関係者でもないことが確認できました。そこで私は悪質な詐欺事件と判断して告訴を受理するとともに捜査を開始しました。しかし、犯人は医師の名刺を配ったわけではなく、借用証も領収書もなく、もちろん録画や録音もありません。物的証拠と言えるものは何もありませんでした
 幸い、常連客の中に捜査に協力してくれる方がいたので、その方から犯人が医師だと言っていた状況についての供述調書を作成しました。また、犯人は被害者とメールのやりとりをしていたので、被害者の携帯電話機からデータを抜き取り、医師に関する話題を抽出して解析報告書を作成しました。騙し取られた1,000万円については、犯人の口座からほぼ全額が下請け業者へ送金されていたことが判明し、使途先も明らかにしました。
 こうした捜査結果を持って検事相談に行ったところ、いくつかの宿題(追加捜査の警察隠語)をいただきましたが、最終的にゴーサインが出され、住居不定だった犯人を探しだし、逮捕して送致しました。当初犯人は、私の取り調べに対し、「酔っ払っていたので医者だと言ったかどうか覚えていない」などと否認しましたが、被害者が記憶していた騙しの文句やメールの文書などの証拠を少しずつぶつけていきました。初めはのらりくらりしていた犯人でしたが、私が「今、アフガニスタンに来ています。ひどい状況です。必死に子どもたちの治療に当たっています。」との内容のメール文書を読み上げ、「このメール覚えているよね。これ読んだら誰だってあなたが医者だと思うよね?」と言ったとき、犯人は苦笑いしながら同時に泣きそうな顔になりました。どんな役者でもあんな表情はできません。あれから10年近く経ちますが、あのときの犯人の顔は今でもはっきりと思い出せます。結果として犯人は、「医者だと嘘を言ってお金を騙し取り、督促されていた下請け会社への支払に使いました」と認めました。そしてその供述調書に署名させることもでき、公判請求から有罪へと持って行くことができました。
 このように借用書や領収書のような物的証拠が全く無い詐欺事件でも、刑事のやる気と工夫次第では犯人の処罰は可能です。もしも告訴相談で刑事に「物的証拠がないので受理できない」と言われたら、このQ&Aを読んでもらってください。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。

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