名誉棄損罪・侮辱罪の被害にあったら【元刑事が解説】

 名誉棄損罪・侮辱罪(以下名誉棄損等)は、親告罪といって、告訴がなければ検察官が起訴することができません。ごく簡単に言えば、警察に告訴状を提出しないと、事件として捜査し、犯人に罰を与えることができないということです。被害届は告訴状の代わりになりませんから無意味です。

 ただし、警察は簡単に告訴状を受理してくれません。名誉棄損等の場合、よく問題になるのが「公然性」です。犯人による名誉棄損等の言動や表示をある程度の人数の人が見聞きしたか、その可能性があったことが必要です。例えば相手と1対1で、周囲に誰もいない状況下で「バーカ」と言われたとしても、公然性が無いとして受理されません。では、聞こえる範囲に他人が一人いたらどうかというと、これも受理されません。では、何人以上聞いていれば「公然性」が認められるかというと、裁判例・判例でも明確に「何人以上なら公然性あり」と名確にしたものがありません。中には「聞いた人が2、3人でも、伝播性があれば成立する」とした古い判例もあります。しかし、伝播性を重視すると、聞いた人が一人だけでもその一人が百人に話して伝播したら成立することになってしまい、この判例には批判も存在します。結局のところ、「公然性」の有無については、担当者判断になるのが現実です。
 次に問題となるのが「個人の特定」です。ネット上でハンドルネームやIDをさらされて「○○○○(ハンドルネーム)は、万引きや盗撮の常習犯罪者」と書き込まれても、通常、ハンドルネームやIDだけではどこの誰かわからないので個人が特定されたことにはならず、受理されません。苗字だけならどうかと言えば、これも個人特定はできませんので受理されません。ただし、「○○株式会社〇〇支店の鈴木」というように、他の情報との組み合わせによって個人特定できる場合には、受理される可能性があります。
 最後に名誉棄損等の内容です。名誉感情は個人差が大きく、例えば「田舎者」と言われた場合、平気な人もいれば、激怒する人もいると思います。名誉棄損等の表現の条件は、「その人の社会的評価をおとしめる表現・言動」とされています。先の「田舎者」については、成立するかどうか微妙ですが、私が現役当時だったらおそらく受理しなかったと思われます。公然性同様、最終的には担当者判断になります。

 確実に受理される名誉棄損等の事例を挙げてみます。
  「公然性」:ネット上の誰でも見ることができるサイトに掲載されている。
       文書が多数ばらまかれたり、電柱等に貼られている。
  「個人特定」:本名がフルネームで記載されている。
  「内容」:一般社会常識に照らして、その人の社会的評価を低下させるであろう表現。
      「前科者」「犯罪者」「精神障害者」「スケベ」「変態」など

 結局のところ、受理・不受理は、実際に捜査する刑事の判断によって決まります。当事務所に名誉棄損等で相談される方はとても多いですが、ネット上に裸体画像を実名入りで掲載されているなど明らかに成立する場合を除き、一度警察に相談することをおすすめしています。せっかく告訴状を作成して持って行っても、不受理とされればお金と時間が無駄になってしまうからです。成立・不成立について、お悩みの方は、当事務所までご連絡ください。相談は無料で、秘密は守ります。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

Profile Picture