記憶に残っている特異変死体(遺体)の取り扱い
「変死」とは、病院等で医師に看取られて亡くなった以外のケースについて、警察官が変死体があった場所の環境捜査、変死体の検視などを実施し、事件性判断と死因判定につながる資料の収集を行い、検案を行う医師に報告する取り扱いを言います。事件性が無く、死因も推定できればそのまま遺族に引き渡して終了となりますが、事件性があったり、死因が全くわからない場合には司法解剖または行政解剖もしくは新法解剖になります。司法解剖と新法解剖では、警察官は立ち合わないとなりません。私は、警察署での刑事は約18年やりました。変死は一か月に4体ほど扱いましたので18年×12か月×4体=864体ほど扱った計算になります。その中で今でも強く記憶に残っている変死扱いを記載します。
1.母子心中事件
麹町警察署時代の扱いです。管内のホテル内で30歳代シングルマザーの母親と4歳の娘さんの死体が見つかりました。母親は娘さんの首を絞めて殺害した後、首を吊って自死したものです。母親は、同年代の男性と不倫関係にあったのですが、乳がんにかかり、摘出したのですが進行が止まらず、その男性からは見捨てられ、絶望して心中したものでした。心中とはいえ、殺人事件ですから二体とも同じ病院同じ解剖室で司法解剖になりました。私はこの解剖に立ち合ったのですが、当時自分の子どもがこの娘さんと同じ年齢であったため、かわいそうで直視することができませんでした。
2.臓器移植希望死体
板橋警察署時代に、ある大学病院から「間もなく亡くなる患者が臓器移植希望なので調査を頼みたい」との連絡がありました。患者は20歳代の女性で、若干の知的障害があるものの、会社員として働いている方でした。自宅で転倒して意識を失い、救急搬送されたものの脳内出血で意識が戻らず、回復の見込みがないという状態でした。鑑識課の検視官と一緒に現場である自宅に行き、両親と女性の兄の立ち会いで見分しましたが、特に問題となる点は見当たりませんでした。ところが、女性の勤務先に行って聞き込みをした刑事に対し、女性と親しかった同僚の女性から「(死亡)女性は『日ごろから同居している兄に殴られるなどの被害にあっている』との相談を何度か聞いたことがあります」との話が出てきました。つまり、女性は転倒したのではなく、兄から暴行を受けて意識不明になった可能性が出てきたのです。すぐに兄の取調べ始まり、ポリグラフといういわゆる「嘘発見器」による検査も行われました。また、医師により女性の死亡確認がされたため、ご遺体は別の大学病院において司法解剖となりました。臓器は全て切り刻まれるので、臓器移植は取り止めとなりました。
結果として兄の容疑は晴れ、知的障害があった女性の嘘だったことがわかり、事件捜査は終結しました。しかし、臓器移植された娘さんの体の一部がどこかの誰かの体内で生き続けるというご両親の希望はついえ、何もしていない兄は容疑者となり、全く誰も得をしない結果となってしまいました。
3.知的障害妻
これも知的障害の女性が関係する扱いでした。団地の住人から「ひどい悪臭がする」との通報があり、臭いの元とみられる部屋のインターフォンを押したところ、一目見て知的障害があるとわかる40歳代の女性が出てきました。女性は年齢には全く相応しくない小学生の女の子が着るようなアニメのキャラクターが描かれたTシャツを着ており、室内の壁には小さな女の子が観るようなテレビアニメキャラクターのシールが大量に貼られていました。この奥さんの夫は、台所で倒れて亡くなっており、腐敗がかなり進行し、顔面は真っ黒で周囲の床には腐敗汁が拡がっている状態でした。死後、2週間程度と推定できました。この間、女性は夫が死んだことはかろうじて理解できたようですが、どうしていいかわからず、冷蔵庫内にあった食料だけで食いつなぎ、夫の腐敗汁を裸足で踏んでそのまま室内を歩き回っている状態でした。女性は、私たちの質問に対し「どうしてこうなっちゃったんだろう」と繰り返すだけでした。
事件性は無かったので、ご遺体を運び出し、腐敗汁なども可能な限り片付けました。その後、付近の住民から警察署に電話があり、「臭いがひどいから何とかしてくれ」と言われましたが、警察には脱臭作業をする能力も義務もありません。管理団体に連絡して依頼するように助言しましたが、その団体も「予算がない」との理由で断ったそうです。その後、この女性がどうなったのかはわかりません。
4.女性電車飛び込み
深川警察署時代に、30歳代の女性が駅で通過する特急電車に飛び込んで亡くなりました。女性は時速100キロ以上で走る電車の下部に巻き込まれた結果、一番大きくてもハンドボールサイズくらいの小間切れとなっており、人間の体の一部とは思えない状態になっていました。持っていた身分証から身許はすぐにわかり、近くのメンタルクリニックで診療を受けた後、発作的に飛び込んだものと思われました。警察署で夫にご遺体を引き渡したのですが、そのときこの夫から「刑事さん、相談があります」と言われました。「どうぞ」と言って話を聞くと「私と妻には保育園児の男の子が二人います。この子たちに母親のことはとても話すことはできません。そこで、外国に仕事に行ってしばらく帰ってこないことにしようと思うのですがよろしいでしょうか?」と言われました。私は即答することができず、しばらく言葉が出てきませんでした。
5.首都高速道路上における死亡事故
麹町警察署時代に、首都高速本線上でバックしていたダンプの後方で誘導していた警備員がそのダンプにひかれて亡くなるという事故が発生しました。すぐに管轄する警視庁高速隊が現場に臨場したのですが、現場は首都高速の本線道路上ではあるものの、事故発生時は道路工事のためバリケードで封鎖されており、「道路上ではなく工事現場における死亡事故だから交通事故ではなく一般の事故だ」と主張し、場所を管轄する麹町警察署に事故を引き継ぐように通報してきたのです。麹町警察署側は「封鎖しようがどうしようが道路は道路だろ」と反論したのですが、なんとしても「交通死亡事故」にしたくない高速隊側の熱意に負ける形で引き受けてしまったのです。
このように、交通事故ではなくなった事故は「事件」として刑事課の扱いになります。慣れない自動車事故の扱いで捜査は進まず、夜間事故現場の首都高を一時通行止めにして、実況見分を行ったりしました。司法解剖の結果などが出た約1年後にようやく事件を検察庁に送致することができました。交通事故扱いにしていれば、もっと容易に素早く送致できたことでしょう。
この事故ではもう一つ残念なことがありました。警察が「交通事故」扱いにしなかったせいで、ダンプの保険が利かず、亡くなった警備員の遺族に対して保険金が支払われなかったのです。補償問題が最終的にどうなったのかは知りませんが、保険金が出ていれば遺族もダンプの運転手も大いに助かったことでしょう。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。


