警察官が検察官にケンカを売った結果(刑事VS検察官)
某署刑事課盗犯係で駆け出し刑事をやっていた頃の話しです。午前10時頃、電話が鳴ったので取ると、東京地検(区検だったかもしれません)の事務官からでした。事務官というのは、一定の捜査権限を持ちながら、検察官の秘書的業務をこなす国家公務員です。事務官は申し訳なさそうな声で「あのー、すみませんが、窃盗で勾留中の○○(被疑者名)を今から単独で連れてきてください。」と言われました。○○は、その10日ほど前に窃盗罪で逮捕して、その署の留置場に勾留中の被疑者でした。私は、刑事になったばかりであったこともあり、深く考えずに「はい、わかりました。」と言って電話を切りました。すぐにその話を上司であるS係長にしたところ、係長はカンカンになり「なにー、検事の野郎、自分で昨日連絡忘れておきながら、俺らに連れてこいと言ってるのか! おい、浅利チョー、そんなの行く必要ねー。いや俺が電話する。」と言うと、検察庁に電話して、先ほどの事務官に「そっちが連絡忘れたんでしょ。うちは行かないから。ガチャン」と言って電話を切ってしまいました。
検察官が逮捕被疑者を調べる場合、その前日までに被疑者が在監している警察署の留置係に電話をします。電話を受けた留置係では、「集中護送」といって、マイクロバスや大型バスでエリア内の警察署を巡回して被疑者を乗車させ、検察庁へ護送する手続をします。このときは検察官または事務官がこの連絡を忘れ、バスに乗ってきてないことからこれに気付いて急遽連絡してきたというのが事実です。
私は内心「検察官とケンカして大丈夫なんだろうか」と不安を感じましたが、それは当たりました。護送を断られた検察官は、上司である副部長に相談し、副部長は警視庁刑事部長(キャリア組)に電話し、刑事部長は私のいた署の署長に電話し、署長は刑事課長を呼びつけて「S係長に言って○○を単独護送で検察庁に連れて行かせろ」と下命し、刑事課長はS係長にその旨を命じました。こうなると普段べらんめえ口調のS係長も抵抗できず「チクショー、淺利チョー行くぞ」といって単独護送の準備をして、私が運転して○○を検察庁に連れて行きました。以前に「検察官とケンカしたら絶対勝てない」と聞いたことがあったので、それを身をもって感じた取扱となりました。
なお、刑事訴訟法は、検察官が警察官に対して指示、指揮ができると規定し、警察官はその指示、指揮に従わなければならないとされています。さらに、おそろしいことに、この指示、指揮に警察官が従わない場合、検察官は公安委員会にその警察官の懲戒または罷免の訴追を求めることができ、公安委員会はその理由があると認める場合はこれに従わないとならないとも規定されています。つまり、検察官の言うことを聞かない警察官を検察官はクビにできるということなのです。この手続が行われたことがあるかどうかわかりませんが、別組織の職員が別組織の職員をクビにできるというのはすごい制度だと思います。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。