警視庁VS神奈川県警【元警視庁刑事のコラム】

警視庁(東京都)は、千葉県警・埼玉県警・山梨県警・神奈川県警と隣接しています。警察組織同士は、広域捜査や情報共有などで連携する場面も多く、基本的には協力関係にあります。

しかし、現場レベルでは、組織文化や捜査方針の違いから摩擦が生じることもあります。

今回は、私が警視庁生活経済課に所属していた頃、神奈川県警との証拠品引き継ぎで実際に経験したトラブルについてお話しします。

特商法違反事件の捜索で見つかった財布

私が警視庁本部生活経済課で勤務していたとき、ある特定商取引法違反事件の捜査で、東京都町田市内の関係先を捜索差押えしました。

その際、事件関係者の自宅から、本人のものではない運転免許証などが入った財布が見つかりました。

関係者に確認すると、「拾った」などと曖昧な説明しかありません。

ただし、その財布は特商法事件の差押対象ではなかったため、令状による押収はできません。そこで、本人から任意提出を受け、証拠品として保管することにしました。

財布は神奈川県の置き引き被害品だった

その後、本部で財布を調べたところ、数か月前に神奈川県相模原市で発生した置き引き事件の被害品であることが判明しました。

しかし、この財布と特商法事件との直接的な関連は確認できませんでした。

最終的に、財布を所持していた人物についてはこの件での立件を見送り、別の被疑者を書類送致して特商法事件は終結。

ところが、証拠品としてこの財布だけが残ってしまいました。

そこで、被害届を受理している神奈川県警の警察署刑事課へ連絡し、証拠品の引き継ぎを依頼しました。

電話に出た盗犯係の係長は、

「わかりました。明日、書類と一緒に持ってきてください」

と、ごく普通に受け入れてくれました。

相模原の警察署で突然態度が一変

私は正式な証拠品引継書を作成し、生活経済課長の公印を受けたうえで、翌日、雪の降る寒い日に相模原市内の警察署へ向かいました。

刑事課に到着すると、電話対応した係長が取調室に案内してくれました。

ところが、席に着くなり突然こう言われました。

「なんでそちらで事件化しないんですか?」

前日の電話では一切出なかった話です。

私はこう説明しました。

  • 当課は生活経済課であり窃盗事件の担当部署ではない
  • 財布は神奈川県内で発生した事件の被害品
  • 被害届もそちらが受理している
  • 証拠品管理も通常は受理署の担当になる

しかし相手は、

「被疑者を扱っているなら、そちらで事件化できるでしょう」

と譲りません。

理不尽な対応と“礼儀論”

やり取りが続き、私も我慢の限界でした。

「昨日、持ってきてくださいと言ったのはそちらでしょう。こういう嫌がらせのような対応はやめてください」

すると今度は別の若い巡査部長が現れ、

「うちの刑事課長に挨拶していない。礼儀知らずだ」

と言ってきました。

しかし、私は到着してすぐ取調室に案内されており、課長に挨拶する機会などありません。

そもそも、証拠品の単純な引き継ぎで刑事課長への挨拶が必要という慣例もありません。

「書類に不備」と言いながら受理拒否

その後、係長は刑事課長のところへ相談に行きました。

会話はほぼ聞こえていましたが、どうやら受け取りを拒否する理由を探していたようでした。

最終的に、

「書類に不備があるので受け取れない」

という話になりました。

そこで私は、

「では修正して再提出します。受け取っていただけますか?」

と確認しました。

しかし返答は、

「それはできません」

完全に話が破綻しています。

結局、財布と書類を持ってそのまま帰るしかありませんでした。

唯一の救いは、刑事課にいた年配刑事の何人かが、同情するような目で見送ってくれたことでした。

上司も経験していた“県境トラブル”

警視庁に戻って上司へ報告すると、その上司も似た経験をしていました。

当時、その上司が盗犯刑事だった頃、東京都内の質屋で空き巣被害品を発見。

発生地を管轄する神奈川県警へ確認の電話を入れ、

  • 質屋の所在地
  • 被害品の詳細

を説明しました。

ところが、書類を整えて回収に向かう前に、電話を受けた神奈川県警の刑事が先に回収してしまったそうです。

つまり、空き巣犯検挙につながる重要証拠を持っていかれたということです。

最終的には被害者へ直接還付

上司と相談した結果、その財布は神奈川県警へ引き継ぐのではなく、被害者本人へ直接還付することになりました。

私が再び相模原まで足を運び、無事に返却しました。

まとめ:警察組織間でも現場対応には差がある

警察は一つの組織のように見えても、実際には都道府県ごとに独立した組織であり、現場の文化や対応にも違いがあります。

今回の件はあくまで私個人の実体験ですが、警察内部でも県境をまたぐ証拠品引き継ぎや捜査協力で苦労するケースがあることを実感した出来事でした。

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淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。

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