刑事課VS生活安全課
警察署の中には、警務課、交通課、警備課、公安課、刑事課、生活安全課、組織犯罪対策課などの課があります。この中で、だいたいどこの警察署でも仲の悪い課同士があります。それがタイトルのとおり、刑事課と生安課です。
なぜ、この二つのセクションの仲が悪いかというと、事件や事故が発生した場合、どちらの課が担当すべきかが微妙な事案が多く、どちらの課も自分のところでやりたくないため、お前がやれ、そっちがやれで、ときにケンカになることがあるからです。その微妙な事案について以下に挙げてみます。
① 痴漢
電車内や路上での痴漢。特に電車内での痴漢は、新宿や渋谷、池袋といったターメナル駅を持つ警察署では、毎日数件の通報が入り、被疑者が連行されてきます。痴漢行為は、東京都迷惑防止条例違反になる場合と、刑法の不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)になる場合がありますが、その見極めが極めて微妙なのです。典型的な迷惑防止条例違反は、被害者の着衣の上から胸、尻、陰部などをなで回す行為です。不同意わいせつ罪の場合は、下着の中にまで手を入れて陰部をもてあそんだり、やはり下着の中に手を入れて胸、尻を強くもむような行為です。しかし、実際の事案では、この中間ケースが度々起きます。例えば、着衣の上から胸や尻を「強く」つかんだり、スカートの中に手を入れて下着の上から陰部を強く触るようなケースです。こうした条例と不同意わいせつのどちらでやってもいいようなケースがあると、どちらの課も自分のところではやりたくないのが本音なので、先ほど書いたように、お前のとこでやれ、そっちでやれとケンカになるのです。どうしても決着が付かない場合は、本部の刑事部内にある刑事総務課法令指導担当に電話して聞くこともあります。その回答が「不同意わいせつ罪でしょう」となると、刑事はがっくりしながら事件を扱わざるを得ません。生安は陰でにっこりすることになります。
② 自殺未遂
自殺未遂も毎日のように通報が入ります。首を吊っている場合は99%亡くなっていますので、黙って刑事課員が臨場して変死として扱います。逆に薬の大量服用の場合やリストカットの場合は亡くなることは少ないので、生安課員が臨場します。しかし、これも痴漢同様にどちらが臨場すべきかで迷うケースがあります。2階や3階から飛び降りてまだ意識があるというような場合です。生安課が他の事案を扱っている場合、刑事課に対して「今行けないから刑事で行ってくれませんか」と言っても、普段課同士の仲が悪いと「生きてるならうちの扱いじゃないから行かないよ」で終わりです。渋々生安課員が現場に行くと、既に心肺停止だったりします。そこで現場から電話して刑事を呼び出します。その間に飛び降りた人は救急車で病院に搬送されてもう現場にはいません。後から現場に来た刑事課員に「写真は撮ったか」と聞かれ「撮ってない」と答えると「何で撮ってないんだ」と言い合いになることがあります。生安課員からすれば「じゃあお前らが臨場しとけよ」です。
③ DV事案
家庭内暴力や男女間のケンカの通報も毎日数件の通報があります。ケガがひどかったり、常習だったり、刃物などの兇器を使っている場合は、問答無用で傷害罪で逮捕となり刑事課の扱いになります。しかし、ケガが無かったり、軽傷だったりで被害者が被害届を出さない場合は、生安課の扱いとなります。ところがここでもその中間のようなケースが出てきます。ケガが中程度で被害届を出そうか迷っているといったケースです。こうした場合、とりあえず関係者を警察署に同行するのですが、ダラダラと何時間経っても結論が出ないことがあります。結果として被害届を出さないということになると生安課が担当になり、相談簿を作って署長までの決裁を受けることになります。署長からは、再発防止対策を十分取るように下命されます。ところが、数日後、同じ当事者間で再びトラブルとなり、今度は被害者が刺されて重傷を負ったなんてことになることがあります。そうなると生安課は「あのとき刑事課が事件化しなかったからこうなったんだ」とカンカンに怒り、元から仲の悪い課同士の関係がさらに悪化することになるのです。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。