知能犯刑事になるには? 必要なスキルと実態【元警視庁刑事のコラム】
知能犯刑事になるには、高度な知識とスキルが求められます。
具体的には、以下のような能力が必要です。
- 銀行取引明細の読み方:お金の流れを正確に把握する能力
- 会計帳簿の理解:不正な取引や隠し財産を見抜くための知識
- 小切手・手形の仕組み:金融犯罪の捜査に必要な基本知識
- 選挙違反の理解:公職選挙法に基づく捜査のための知識
- 業務上横領と背任の見分け:犯罪の構成要件を正確に理解する能力
- 贈収賄事件の情報収集:内密な情報を収集・分析するスキル
- 詐欺事件の捜査:巧妙な手口を見破る調査力
- 告訴・告発事件の受理と迅速な処理:法律に基づいた適切な対応力
知能犯刑事になるための道のり
知能犯刑事になるために必要な資格や講習は実はありません。
現場での経験が重視されており、突然の人事異動で知能犯係に配属されることが一般的です。
例えば、盗犯係で泥棒を追っていた刑事が、ある日突然「知能犯係命免(異動の通達)」を受けて知能犯刑事になることもあります。
私自身も同様の経験をしましたが、小切手や手形の知識、銀行取引明細の読み方などは一切教えてもらえず、現場での実践を通じて覚えていきました。
知能犯刑事としての初仕事の実態
知能犯係に配属されると、すぐに告訴事件の書類を渡され、担当することになります。
しかし、法律用語が難解で、辞書や参考書を片手に事件内容を理解するのが精一杯でした。
インターネットも普及していない時代だったため、刑法の参考書を読み漁り、図書館に通って勉強する日々が続きました。
ベテラン刑事からの学びと苦労
新人の知能犯刑事にとって、ベテラン刑事の助言は貴重ですが、精神論が多く、実務的なアドバイスは少なかったです。
例えば、酒好きの係長は「俺が若いときにはなあ…」という話ばかりで、実際の捜査方法を教えてくれることはありませんでした。
彼は飲み会に誘う際、「1時間だけ」が口癖でしたが、実際には午前1時を過ぎることがほとんど。
そのため、私は心の中で彼を「1時ジジイ」と呼んでいました。
知能犯刑事になるまでの苦悩と成長
知能犯刑事としての仕事は、例えるなら「洋食屋の料理人が、いきなり寿司を握れ」と言われるようなもので、初めのうちは毎日辞めたいと思っていました。
転職先を考えたり、警察小説を書いて投稿したりと模索しましたが、次第に仕事を覚えていきました。
5〜6年後には、告訴事件を一人で受理し、捜査・逮捕状請求ができるまでに成長。
知能犯刑事になるためには、地道な勉強と経験の積み重ねが必要です。
まとめ:知能犯刑事になるには
- 特別な資格は不要だが、膨大な知識と経験が必要
- 銀行取引明細の読み方や小切手の仕組みなど専門知識を独学で習得
- 告訴事件の受理・捜査を通じて経験を積み、成長していく
- 精神的なタフさと忍耐力が求められる
知能犯刑事になるには、覚悟と努力が必要ですが、貴重な経験とやりがいのある仕事です。
本記事を参考に、知能犯刑事を目指す方が増えることを願っています。
旧記事
知能犯刑事には、銀行の取引明細を見てお金の流れが読めて、会計帳簿が読めて、小切手や手形の仕組みを知っていて、選挙違反を理解し、業務上横領と背任の見分けがつき、贈収賄事件情報収集ができ、詐欺事件を捜査し、そして何より告訴・告発事件を正しく受理して迅速に処理できる能力が要求されます。そんな知能犯刑事になるには、実は何の講習も資格も必要ありません。それまで盗犯係にいて、毎日ひたすら泥棒を追いかけていた刑事がある日突然、「淺利、明日の朝、知能犯係命免(その係への異動を通達されること)だから、8:30に署長室前な。」たったこれだけで、知能犯地獄入りが確定です。私もそうでしたが、一応刑事講習で刑事の一通りの仕事は教わりましたが、小切手や手形のことなど教えてくれませんし、銀行取引明細の見方さえ教えてもらっていません。
知能犯係に入り挨拶すると、係長から「淺利の担当これな」といってロッカーの一角を指さされました。そこには紙ファイルや紙箱に入った事件書類がどっさり置かれていました。4件分の告訴事件が私の担当として、前任者から申し送られたことになります。一番上にある告訴状から読み始めますが、書いてある言葉がわかりません。そのたびに辞書を引いたり、イミダスを読んだり、刑法の参考書を読んだり、ときには図書館に言って本を読んだこともありました(今と違ってインターネットが一般的ではなく、携帯電話も通話とメールしかできなかった時代です)。そんな感じですから、事件内容を理解するだけで精一杯で、捜査するとなると何をどうしたらいいのかさっぱりわかりません。
そこでベテランの酒好き係長に質問するのですが、「俺が若いときにはなあ、いろいろ本を読んだり、先輩に聞いたりしてなあ・・・」という感じで、肝心な質問事項に答えてくれず、ひたすら精神論的なお話をされるばかりで、全く役に立ちませんでした。ちなみにこの酒好き係長は、飲みに誘うとき「淺利、1時間、1時間だけだから一緒に来い!」が決まり文句なのですが、実際に1時間で終わったことは一度もなく、午前1時を過ぎることが珍しくなく、私の心の中ではこの係長を「1時間じゃなく1時ジジイ」と呼んでいました。
こんな感じですから、料理の世界でいえば、洋食屋の料理人を連れてきて、教えもせずにいきなり寿司を握れというようなものですからたまったものじゃありません。警察を辞めたいと思ったことは何度もありましたが、この知能犯入りたての頃も毎日辞めたくて、転職先を考えたり、小説を書いて投稿したり、いろいろともがいた時期でした(余談ですが、この頃久我久志の名前で書いた「第二特捜」という警察小説が江戸川乱歩賞の一次選考を通りました。賞を取るのは無理でも、どこかの出版社からお声がかからないものかと思いましたが無理でした)。
そんな私でも、ゆっくりかたつむりが這うくらいの速度で知能犯の仕事を覚えていき、5、6年経って捜査二課の聴訴室に行った頃には、何とか一人で告訴事件を受理して捜査し逮捕状請求ができるまでに事件をまとめることができるようになっていました。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
