昔の警視庁捜査二課の被疑者取調べ手法【元刑事が解説】
はじめにお断りしておきますが、これは今(2025年)から20年以上前の話しで、現在はこのような取調べは全く行われていません。理由は、約20年前に起きた、有名な志布志事件のせいです。この志布志事件以降、全国警察の取調べは厳しい制約と視認を受けるようになり、それまでのような強圧的な方法による取調べは一切なくなりました。
では、20年以上前の警視庁捜査二課はどのような被疑者取調べを行っていたかを説明します。警視庁捜査二課で主に取り扱う事件は、贈収賄(汚職)事件、選挙違反事件、巨額特別背任事件などで、その被疑者の多くは、政治家、国家公務員、会社役員、大手銀行幹部など、社会的地位も資産も持っている人たちです。そういった「人生の成功者」とも言える人たちを、地方公務員である警部補が担当になって取り調べるのです。取調べを受ける側からすれば、普段は警視や警視正の警察署長クラスですら下に見ているのに、階級で下から三番目の警部補なんか屁でもありません。そこで、取調べに当たる捜査二課員は、最初の取調べで、どちらが優位な立場にあるかを相手に叩き込むのが通例でした。
まず、初日の取調べ、相手を取調室に入れたら部屋のドアは閉めます。できる限り中の声や音を外に漏らさないためです。取調室の中は、取調官(警部補)、立合官(巡査部長)、被疑者の3名だけです。取調官は、最初に官職、氏名等を簡単に告げた後、供述拒否権を説明します。「言いたくないことは言わなくていいが、嘘だけはつかないように」という決まり文句です。そこからは、取調官は自分が出せる限りの大声で「てめえ、なんでここにいるかわかってんだろうな!」と怒鳴って机をバーンと叩きます。蹴っ飛ばすこともあります。ただし、相手の体に直接打撃が当たるようなことまではしません。そのぎりぎりを突きます。相手が気色ばんで「な、なんだ、あんた、いきなり…」なんて口応えしようものなら「うるせえ、この乞食野郎!てめえ、他人様の金に手え付けやがってこの野郎、その金でブクブク太りやがって!お前、乞食以下だな、ブタだ、ブタ!ブタ!おいブタ野郎!なんか言えるか!」で、机バーン。ここでまた相手が何か言うと「おい!ブタのくせにしゃべるんじゃねえ!このクソブタ野郎、カス!ボケ!真面目に税金払っている国民の皆さんに土下座して謝ってこい、ブタ野郎!」机バーン、と続きます。ひたすら相手をおとしめるような言葉を怒鳴り続け、机を叩き、蹴っ飛ばします。午前中これを2時間やったとすれば、午後にまた3、4時間やります。取調べとは言いつつ、事件について聞くことはほとんどありません。ひたすら相手を罵倒するだけで初日の取調べは終わります。この捜査二課員の取調べが始まると、大変なのは取調室を貸しているその署の刑事課員です。怒鳴り声や机を叩く音がうるさくて仕事になりません。電話の声も聞こえづらいですし、隣の取調室ではうるさすぎて取調べができません。
こうして初日の取調べが終わり、捜査本部がある部屋に取調官が戻ってきて係長(警部)や管理官(警視)に報告するのですが、1日中怒鳴り続けたため、声が出ません。そもそも、まともな取調べなんかやっていないので、大して報告する内容もないので、報告はすぐに終わります。被疑者はというと、普段は大きな机や椅子にふんぞり返って座り、秘書や若手に雑用一切をやらせているような人たちです。一日中、「乞食だ!ブタだ!」などと怒鳴られ続けるなんて経験はまず受けたことがありません。とはいえ、大きな犯罪を犯してしまったという負い目があるので、正面きって抗議もできません。こうして、国家公務員のお偉いさんや大手企業の幹部なども、この取調べとも言えない取調べを1日か2日受けると、自尊心をズタボロにされ、すっかりしょげておとなしくなってしまうのです。一度こうなって取調官との上下関係が構築されると、被疑者はまな板の上の鯉状態になり、後は取調官が腕を振るう番になると言う訳です。
重ね重ね、現在はこのような「怒鳴る」、「乞食」や「ブタ」のような差別的用語の使用、机や椅子を叩いたり蹴ったりの暴力的行為などは、一切禁止されて行われていません。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。


