刑事と鑑識の関係【元刑事が解説】
刑事と鑑識は、事件捜査において互いに欠かせない存在です。警察内部では昔から、この関係を「捜査の両輪」と表現してきました。
刑事が被疑者の取調べや関係者からの事情聴取を担当し、鑑識が現場の指紋採取や証拠保全、写真撮影などの科学捜査を担う――まさに両者が連携して初めて捜査は前に進みます。
しかし、元警察官・元刑事の立場から正直に言えば、かつてはこの“両輪”が必ずしもスムーズに回っていたとは限りませんでした。
特に2010年代頃までは、刑事になるための「捜査講習」と、鑑識になるための「鑑識講習」が完全に別制度でした。そのため、刑事と鑑識の間には見えない“縄張り意識”のようなものがありました。
当時は、鑑識から刑事へ異動する警察官はかなり少なく、その逆はさらに稀でした。
「自分は鑑識」「自分は刑事」という職種意識が強く、担当外の仕事には積極的に関わらない空気があったのです。
ところが現在は制度が大きく変わりました。刑事でも鑑識でも共通の「捜査講習」を受ける形に一元化されており、鑑識から刑事への異動も珍しくありません。逆に、刑事経験者が鑑識へ異動することも普通にあります。昔のような強い身分意識はかなり薄れたといえるでしょう。
警視庁の刑事課宿直勤務は想像以上に過酷だった
私が警視庁大井警察署で巡査部長の駆け出し刑事だった頃の話です。
ある宿直勤務の日、刑事課の夜勤メンバーはわずか3人でした。
- 暴力犯係長(警部補)
- 私(盗犯係の巡査部長刑事)
- 鑑識係のベテラン班長(巡査長)
島しょ部の警察署ならまだしも、都内の警視庁警察署で刑事課宿直員が3人というのはかなり少ない部類です。
そして現実はもっと厳しいものでした。
傷害事件や万引き事件で現行犯逮捕が入ると、係長は被疑者の取調べに入って出てきません。
私は被害者から被害届を受理し、その後すぐ被害者供述調書を作成します。
さらに地域課(制服警察官)が連れてきた現行犯人逮捕手続書の作成補助までしなければなりません。
そこへ目撃者まで現れると、当然ながら参考人供述調書も必要になります。
つまり、実質的に一人で複数案件を同時進行しているような状態です。
「俺は刑事じゃない」鑑識との忘れられないやり取り
そんなある夜、私は鑑識係の班長に低姿勢でこうお願いしました。
「班長、申し訳ないんですが、マル目(目撃者)の調書をお願いできますか?」
すると返ってきたのは、予想外の一言でした。
「俺は刑事じゃなくて鑑識だから、調書はやらないよ」
……絶句しました。
もちろん、その班長個人の考え方だったのでしょう。すべての鑑識がそうだったわけではありません。
しかし、当時はこうした“職域意識”が珍しくなかったのも事実です。
刑事課の宿直員は名目上3人でも、実際の戦力としては2.5人くらいという感覚でした。
この「0.5人分足りない」感覚は、現場で働く刑事にとってはかなり大きいのです。
今の警察ではこうした壁はかなり減っている
現在の警察組織では、捜査制度の見直しによって刑事と鑑識の垣根はかなり低くなっています。
昔のように「これは自分の仕事じゃない」と明確に線引きする文化は弱まり、柔軟な協力体制が進んでいます。
私の時代の鑑識講習出身のベテラン警察官も、あと数年でほぼ全員が定年退職するでしょう。
そうなれば、「俺は鑑識だから調書はやらない」と言うタイプの警察官は、ほぼ絶滅するかもしれません。
時代は確実に変わっています。
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淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
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そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
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