留置場の同居人に100万円渡した泥棒の話【元刑事のコラム】

 O署で刑事になる前に留置場(現留置施設)で留置係員(看守)として勤務していた当時の話です。マンションの3階の部屋に侵入し物色していた泥棒が、居住者が帰宅したため、慌ててベランダから1階に飛び降りて逃げようとして捕まる事案が発生しました。飛び降りた場所がコンクリートだったため、泥棒は両足首を骨折し、10メートルばかり歩いたところで動けなくなって逮捕されたのです。
 この泥棒は非常にユニークな手口を持つ泥棒でした。何らかの方法(やり方は最後まで口を割らなかった)で、海外へ行くターゲットを探し、居住者が日本にいない間にその部屋に侵入して金品を奪うというものでした。海外旅行する=金持ちという目論見があったのだと思われます。余罪は100件ほどあり、その捜査に長期間を要し、O署の留置場には半年以上入っていました。盗んだ金で内装工事の会社を立ち上げ、従業員を雇っていたというインテリ泥棒とも言えるやつでした。
 さて、この泥棒、両足首を骨折したため、ほとんど歩くことができず、室内ではつかまり立ち、取調べなどで外に出るときは車椅子でした。定期的に病院には診療に行かせ、治療を受けさせていましたが、良くなる兆候は見えず、半年近く経ってもずっとつかまり立ちの状態でした。
 これは後から判明したことなのですが、実はこの泥棒の足は2、3か月後には治っていたのです。泥棒は、「足のケガが治らない」→「一生車椅子」→「もう泥棒はできない」と警察に思わせて、刑務所出所後にはまた同じ手口で泥棒をする計画だったのです(実際出所後にまた同じ手口で泥棒を重ねてまた逮捕され、警視庁捜査三課の空き巣常習者に指定されました)。そのため、治った後もずっとつかまり立ちの演技を続けていたのですが、あるとき(おそらく深夜のトイレ)、うっかり室内で普通に歩いてしまったのです。これを同室のシャブ中に見つかってしまい、このシャブ中から「○○さん、見ちゃいましたよ。足治ってんじゃないですか。どうしようかな、おまわりに言っちゃおうかな」となりました。これには、泥棒も困ってしまい「頼む、それだけは止めてくれ」となり、シャブ中は100万円で手を打ったという訳です。渡した方法までは聞いていませんが、泥棒の奥さんが毎週のように面会に来ていたので、この奥さんに頼んで、シャブ中の口座にでも振り込んだのかもしれません。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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