警視庁公安部外事一課の「大川原化工機冤罪事件」について その2【元刑事が解説】

 8月7日、警視庁が大河原加工機冤罪事件についての報告書を公開しました。新聞報道によると、大河原加工機の社員の方はこの報告書内容を70点と評価していましたが、私の評価も同じかもう少し低い感じです。この冤罪事件が起きる原因となった外事一課の状況についてはその1で述べたとおりですが、その辺りへの言及は不足していると思います。あまり深くそこに触れると課の存亡に関わることなので、回避したようにも思われます。
 読んで新たにわかったことは、この事件を起こした外事一課5係には警視の管理官1名と警部の係長1名がいて、警視は巡査部長・警部補・警部、警部は巡査部長・警部補でそれぞれこの5係での勤務経験があったとのことです。これは警察内部では「出戻り」と言われ、昇任して警察署に異動となった後、数年で元いた係に戻ることを言います。その係の仕事に非常に長けていることを組織が認めていたということであり、こうした存在を警視庁内では非公式に「○○の神様」と言う言い方をします。○○の部分には、「職務質問」や「指紋」「選挙」「ヤミ金」などの言葉が入ります。こうした神様と言われる人たちの中には、警察庁が指定する「広域技能指導官」に任命されることもあります。任命されると、警視庁内は元より、他道府県警にまで行って、自分の担当する専門分野について講義をします。この2人が広域技能指導官であったかどうかは報告書内に記載がないのでわかりません。ただし、組織内に公安部があるのは全都道府県警で警視庁だけですし、外為法の検挙数も警視庁が圧倒的トップですから、その係の頂点にいるこの警視は、「外為法違反捜査については自分が日本一詳しい」と思っていたことは間違いないと思います。
 話を○○の神様に戻します。こうした神様と言われる人たちには2種類います。一つは警部になっても警視になってもそれまでと変わらず、おごらず、協調性があって、部下の話をよく聞いてくれるタイプ。もう一つは、警部になったとたんに人が変わり、自分が本当に神様になったかのように振る舞い、部下はもちろん、上司の意見さえ聞かなくなるタイプです。報告書を読んだ感じでは、5係の警視と警部は正に後者タイプの典型例と言えるでしょう。私自身、生活経済課に勤務していた当時に、こうした後者タイプの上司に仕えたことがあります。この上司は私と同じ刑事出身でしたが、パワハラ・モラハラで多数問題を起こして刑事警察に戻れず、昔の上司が生活経済課にいたので拾ってもらったのです。しかし、着任早々、自分のやりたい事件、やりたい捜査手法をごり押しで進め、部下の意見は一切聞かず、猪突猛進で仕事を進めたことから、部下が猛反発して幹部に直訴し、この上司は事実上職を解かれ、課内の空いてる席に1人ポツンと座らされ、仕事がないので1日中を本を読んでいました。その後、警察署に出されましたが、若い警察官を殴るなどして、警部から警部補に降格されました。
 話が脱線しましたが、この冤罪事件が起きた要因は組織的な問題もありますが、「人」の問題もあります。警察は階級社会であり、警部以上が真の幹部であり、なった途端に天狗になる人が少なからずいます。「降格」という階級を下げる制度がありますが、刑事事件相当の問題を起こしたときくらいであり、適用されるのは非常に希です。降格をもっと柔軟に適用し、問題ある幹部を排除して良いのではと思います。
 


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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