特定文書番号の文書を決定する経過の分かる決裁書及びその他の文書の不開示決定(適用除外)に関する件

諮問庁:検事総長
諮問日:平成30年10月17日(平成30年(行情)諮問第457号)
答申日:平成31年3月20日(平成30年度(行情)答申第502号)
事件名:特定文書番号の文書を決定する経過の分かる決裁書及びその他の文書
の不開示決定(適用除外)に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
「特定文書番号の文書を決定する経過の分かる決裁書及びその他の文書
全て」(以下「本件対象文書」という。)につき,行政機関の保有する情
報の公開に関する法律(以下「法」という。)の規定は適用されないとし
て不開示とした決定は,妥当である。
第2 審査請求人の主張の要旨
1 審査請求の趣旨
法3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年7月20日付け東地
企第178号により東京地方検察庁検事正(以下「処分庁」という。)が
行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求
める。
2 審査請求の理由
審査請求の理由は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のと
おりである。なお,添付資料については省略する。
(1)審査請求書
ア 平成30年7月2日受付(受理第4号)で,以下の行政文書報開示
請求を行った。「特定文書番号の文書を決定する経過の分かる決裁書
及びその他の文書全て」。
イ 審査請求人は処分庁から,上記のように開示請求した文書について,
行政文書不開示決定に関する処分を受けた。
ウ 処分庁は,不開示決定の理由を,以下のように記載していること。
「本件開示請求は,告訴状の受理・不受理及び処理に関する文書の
開示を求めるものであるところ,同文書は「訴訟に関する書類」に
該当し,その存否はさておき,その請求自体からして,刑事訴訟法
(以下「刑訴法」という。)53条の2第1項の規定により,法の
適用が除外される「訴訟に関する書類」に該当するため。」
不開示決定を要約すると,以下のとおり。
① 請求文書は,刑訴法53条の2第1項の規定により,法の適用
が除外される「訴訟に関する書類」に該当するため。
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② 「その存否はさておき」として,作成したかについて明示して
いない。
エ (法の適用除外)刑訴法53条の2第1項の規定=「訴訟に関する
書類及び押収物については,法及び独立行政法人等の保有する情報の
公開に関する法律(平成13年法律第140号)の規定は,適用しな
い。」であること。
オ しかしながら,請求文書が,どの訴訟に関する書類であるか特定し
ていないこと。特定していない理由は,訴訟自体が存在しないからで
ある。訴訟自体が存在しない以上,「訴訟に関する書類」も存在しな
いことは明白である。
よって,「訴訟に関する書類」を理由に不開示決定を行ったことは
不当であること。不開示決定の取消しを求めること。
カ 「その存否はさておき」と記載していることから,決裁書は作成さ
れていない,又は,公開すれば検察の犯罪が明白となる記載があるこ
とと思料できること。
返戻という決裁内容から判断して,特定知事の有印公文書偽造罪・
同文書行使罪を隠ぺいする目的で行われていること。
隠ぺい目的であるとする根拠は以下のとおり。
① 告訴理由の根拠として送付した「乙第11号証=特定個人Aの
指導要録(写し)」は,一般人が判断しても,偽造文書であること
が明白であること。
② 「有印公文書偽造罪・同文書行使罪」は,非親告罪であること。
③ 告訴状送付者から,聞き取り捜査を行わずに,返戻しているこ
と。
上記から,(国家訴追主義)刑訴法247条=「公訴は,検察官が
これを行う。」を恣意的に利用し,特定知事の有印公文書偽造罪・
同文書行使罪の隠ぺいを行った証拠が,決裁文書であること。
キ 諮問庁には,決裁文書の内容を読んだ上で,検察の組織ぐるみで行
った犯罪隠ぺいを明確にすること。及び,「行政文書不開示決定処分
(原処分)を取り消す」との裁決を求める。
(2)意見書
諮問庁は,以下の規定を列挙して,不開示決定(原処分)を妥当であ
るとしていること。
刑訴法40条,47条,53条,299条等を適用して,不開示決
定を行っていること。
しかしながら,上記の法規定を適用することは,失当であること。
諮問庁の行為は,法規定を隠れ蓑にして,検察は有印公文書偽造
罪・同文書行使罪の犯罪の隠ぺいを目的としている。
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審査請求人が,開示請求を求めている目的は,東京地方検察庁特別
捜査部が,実際に調査を行ったか否かについて,検察官の行った行為を
検証する目的であること。
正当な手続を行った上での告訴状返戻であるかということである。
例えば,告訴状提出者に対する聞き取りも行われていない。
2回行ったが,2回とも聞き取りを行っていない。
可能性として,犯罪の隠ぺい又は不作為が行われたと思料するから
である。
(以下略)
第3 諮問庁の説明の要旨
1 開示請求の内容及び処分庁の決定
(1)開示請求の内容
本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものである。
(2)処分庁の決定
本件開示請求に対し,処分庁は,本件開示請求は,告訴状の受理・不
受理及び処理に関する文書の開示を求めるものであるところ,同文書は
「訴訟に関する書類」に該当し,その存否はさておき,その請求自体か
らして,刑訴法53条の2第1項の規定により,法の適用が除外される
「訴訟に関する書類」に該当するとして,不開示決定(原処分)を行っ
たものである。
2 諮問庁の判断及び理由
(1)諮問の要旨
審査請求人は,原処分に対し,「行政文書不開示決定処分を取り消す
との裁決を求める。」として,当該決定の取消しを求めているところ,
諮問庁においては,原処分を維持することが妥当であると認めたので,
以下のとおり理由を述べる。
(2)「訴訟に関する書類」の意義
「訴訟に関する書類」とは,被疑事件・被告事件に関して作成され,
又は取得された書類であり,それらは,①刑事司法手続の一環である捜
査・公判の過程において作成又は取得されたものであり,捜査・公判に
関する活動の適正確保は,司法機関である裁判所により図られるべきで
あること,②刑訴法47条により,公判の開廷前における「訴訟に関す
る書類」の公開を原則として禁止する一方,被告事件終結後においては,
刑訴法53条及び刑事確定訴訟記録法により,一定の場合を除いて何人
にも訴訟記録の閲覧を認め,その閲覧を拒否された場合の不服申立てに
つき準抗告の手続によることとされるなど,これらの書類は,刑訴法
(40条,47条,53条,299条等)及び刑事確定訴訟記録法によ
り,その取扱い,開示・不開示の要件・開示手続等が自己完結的に定め
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られていること,③類型的に秘密性が高く,その大部分が個人に関する
情報であるとともに,開示により犯罪の捜査,公訴の維持その他の公共
の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであることから,
「訴訟に関する書類」については,法の適用除外とされたものである。
また,刑訴法53条の2第1項は,法の適用除外の対象について「訴
訟記録」だけに限らず,「訴訟に関する書類」と規定していることから
も,被疑事件・被告事件に関して作成された書類の全てが同条の規定す
る「訴訟に関する書類」に該当し,訴訟記録のほか,不起訴記録等も含
む趣旨であると解することが相当である。
(3)本件開示請求に係る対象文書について
本件開示請求は,東京地方検察庁特別特捜部が作成した告訴状を返戻
する旨の文書を開示請求書に添付した上,「同告訴状を返戻する旨の文
書を決定する過程の分かる決裁書及びその他の文書全て」の開示を求め
るものであるため,処分庁において,本件対象文書は告訴状の受理・不
受理及び処理に関する文書であると特定したものと認められる。
(4)本件対象文書が「訴訟に関する書類」に該当することについて
通常,検察官は,告訴状又は告発状,その添付証拠及び追加書類等の
提出を受けた後,告訴等に係る事実が特定されているか否かなどの所要
の事項につき確認し,告訴等の事実の特定が不十分である場合,告訴人
等に対し,その補正を促し,また,告訴等の事実が明らかに犯罪を構成
しない場合等については,告訴人等にその理由を説明し,直ちに告訴等
の受理手続をしない場合もある。
検察官は,このような告訴状等の受理・不受理の判断に係る検討の過
程において,当該告訴状等に記載された事実関係の特定のため,提出者
からの事情聴取や調書の作成を行ったり,関係資料を収集したりするほ
か,告訴の対象とされた者の存否や立場等を確認するために必要な捜査
等を行うこととなる。
このような捜査過程において収集される各種資料等に基づく検討結果
は,当該告訴状等が受理されたか否かにかかわらず,類型的に秘密性が
高いことが多く,その大部分が被害者や告訴等の対象とされた者等の個
人に関する情報から構成されるものであることに加え,これを公にすれ
ば,犯罪の捜査,公訴の維持その他公共の安全と秩序の維持に支障を及
ぼすおそれが大きいと認められる。
本件対象文書は,告訴状の受理・不受理及び処理に関する文書である
が,前述のとおり,検察官は,提出された告訴状等を受理するか,返戻
するかについて判断する過程において,必要に応じて,刑訴法上認めら
れた権限を行使し,関係資料の収集等の所要の捜査等を行うものであり,
本件対象文書は,そうした捜査権行使の経過,結果を示すものであって,
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捜査の過程で作成されたものということができる(参考答申:平成23
年度(行情)答申第258号)。
したがって,本件対象文書は,刑訴法53条の2第1項の「訴訟に関
する書類」に該当するものと認められる。
3 結論
以上のとおり,本件対象文書は,刑訴法53条の2第1項の「訴訟に関
する書類」に該当し,法の適用が除外されるため,処分庁が行った原処分
は妥当である。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成30年10月17日 諮問の受理
② 同日
③ 同年11月12日
諮問庁から理由説明書を収受
審査請求人から意見書及び資料を収受
④ 平成31年2月22日 審議
⑤ 同年3月18日
第5 審査会の判断の理由
1 本件開示請求について
審議
本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものである。
処分庁は,本件開示請求は,告訴状の受理・不受理及び処理に関する文
書の開示を求めるものであるから,その存否はさておき,その請求自体か
ら刑訴法53条の2第1項の「訴訟に関する書類」に該当する文書の開示
を求めるものであり,法の規定の適用が除外されているとして,これを不
開示とする原処分を行った。
これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,
原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書に対する法の規定
の適用の可否について検討する。
2 本件対象文書に対する法の規定の適用の可否について
(1)「訴訟に関する書類」の意義について
刑訴法53条の2第1項は,「訴訟に関する書類」については,法の
規定は適用しない旨を規定しているところ,刑訴法47条が「訴訟に関
する書類」との同じ文言により,「訴訟に関する書類は,公判の開廷前
には,これを公にしてはならない。」と規定していることと対比すると,
同項の「訴訟に関する書類」には,訴訟記録に限らず,不起訴記録や不
提出記録も含まれ,刑事事件の捜査の過程で作成又は取得された文書全
てが,これに該当すると解される。
(2)「訴訟に関する書類」該当性について
ア 本件開示請求は,開示請求の対象となる文書(本件対象文書)であ
る「特定文書番号の文書を決定する経過の分かる決裁書及びその他の
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文書全て」につき,本件開示請求書に特定文書番号の文書(写し)を
添付し,これを引用する形で,特定文書番号の文書に係る決定が何を
指すのかを示して行われたものである。
イ そこで,当審査会において,諮問書に添付された特定文書番号の文
書(写し)を確認したところ,当該文書は,東京地方検察庁特別特捜
部が作成した,告訴状の記載内容に不備があることを理由として告訴
人に当該告訴状を返戻する旨の内容が記載されたものであると認めら
れる(なお,当該文書には,告訴状の返戻を内容とする記載に付加し
て,告訴人に対し,警察署等に相談するよう促し,又は教示する趣旨
の文言も書かれているものの,そのような記載が付加されていたから
といって,当該文書が,全体として,告訴状の返戻とその理由を記載
したものである旨の上記の認定が左右されるものではない。)。
ウ そうすると,告訴状の提出を受けた検察官が,当該告訴状の記載内
容を検討し,提出された告訴状を受理するか,あるいはその記載に不
備があるなどとして,これを告訴人に返戻するかについて判断する過
程で,必要に応じて,刑訴法上認められた権限を行使し,関係資料の
収集等の所要の捜査等を行うものであることは明らかであるから,本
件対象文書は,提出を受けた告訴状の処理に関し,検察官が行った上
記のとおりの捜査権行使の経過や結果を示すものであって,捜査の過
程で作成されたものといえる旨の上記第3の2(4)の諮問庁の説明
は,首肯できる。
エ したがって,本件対象文書は,刑訴法53条の2第1項の「訴訟に
関する書類」に該当するものと認められるから,法の規定は適用され
ないものである。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を
左右するものではない。
4 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,刑訴法53条の2第1項の「訴
訟に関する書類」に該当し,法の規定は適用されないとして不開示とした
決定については,本件対象文書は同項に規定する「訴訟に関する書類」に
該当すると認められるので,妥当であると判断した。
(第1部会)
委員 岡田雄一,委員 池田陽子,委員 下井康史
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淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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