親告罪(過失傷害、器物損壊、名誉棄損、侮辱等)を第三者が告発できる?【元刑事が解説】

 「親告罪」とは、タイトルに挙げたような罪名で、刑事訴訟法の規定により「告訴がなければ検察官は公判請求できない」とされています。もう少しわかりやすく言うと、これらの罪名の被害にあった被害者が警察等に告訴状を提出しないと、検察官は犯人の処罰を求めて裁判所に裁判の開始を求めることができないということです。もっとわかりやすく言うと、「被害者が告訴状を警察等に提出しないと犯人は一切処罰を受けない」ということになります。
 親告罪について、被害者ではない第三者が犯人の処罰を求めて「告発」できるか?ですが、「法的には」これを禁じる規定が一切無いので可能です。告訴権者(被害者)が既に告訴状を提出しているならば、告発状の追加提出は「犯人の処罰を求めている人が被害者以外にもいる」という意味で、検察官の起訴・不起訴判断や、裁判官の量刑判断などにわずかではあると思われますが、影響を与える効果が考えられます。
 では、告訴権者が犯人の処罰を望んでおらず、告訴をしていない(これからもするつもりはない)親告罪で、第三者が告発したらどうなるでしょう? 仮にこの告発状を警察が受理したら、必要な捜査をして検察官に送致する義務を負います。まず、被害者を呼んで被害状況について詳細に聴取し、被害者供述調書、実況見分調書、証拠品の領置、被害状況再現などの作成・実施をしなければなりません。単純な事件なら数時間で終わりますが、複雑な事件では何日もかかります。果たして、犯人の処罰を望んでいない被害者が、これらの捜査手続きに協力するでしょうか? 
 仮に、被害者が応じてくれたとすると、次は被告訴人を取り調べないとなりません。告訴権者の告訴がない親告罪事件ですから、裁判所に逮捕状を求めることはできません。なので、被告訴人を警察署に呼び出しても「俺は行かねーよ」と言われたらそれ終わりです。それ以上どうすることもできません。
 このような捜査の結果、捜査書類を作って、事件を検察庁に送付しても、告訴権者の告訴が無いのですから100%起訴されません。当然犯人は処罰されませんし、告発人には、検察官から「不起訴処分」の通知が届くだけです。警察と検察は無駄な捜査と手続きをするだけで、誰も得しませんし、何も変わりません。
 結論として、告訴権者が既に告訴しているなら告発が受理される可能性はありますが、告訴権者が処罰を望まない親告罪の告発は、幾ら粘っても警察・検察は絶対に受理しないでしょう。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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