取り込み詐欺という古典的犯罪【元刑事が解説】

 取り込み詐欺とは、商品を大量に仕入れた後、支払いをしないまま会社を計画倒産して関係者は逃げてしまうという昭和からある古い詐欺の手口です。この犯罪の特徴や注意点について解説します。

1 会社設立

 休眠会社を安く買い取って、登記内容を変更します。「目的」は商品の仕入れがしやすいように「各種商品の販売」などにします。取締役は本名を登記しないとならないので、金を積むなどして名義貸しをしてもらいます。後で、この取締役に文句を言いに言っても「頼まれて実印を貸しただけ」「何も知らない」などと言って逃げられます。

2 社員

 社員はこの道のプロです。会社を始めては潰し、始めては潰しを繰り返しますが、メンバーは同じことが多いです。名刺を作りますが、名前は偽名です。不良連中なので人相は悪いことが多いです。

3 営業所

 都心の雑居ビルなどに会社事務所を実際に設置します。万が一取引先が見に来てもいいように看板、事務机、椅子、応接セット、ロッカーなどをちゃんと用意します。

4 詐欺営業

 メーカーや問屋などに電話をかけるなどし、商品の購入を依頼してきます。最初は少数の商品を注文し、支払いもきちんとします。その後、売り手が信頼したタイミングで、大量の商品を注文します。この大量注文は、詐欺会社の計画倒産の直前であるため、複数の被害会社に対して一斉に行われます。

5 計画倒産

 被害会社が商品を指定された倉庫などに発送し、支払い指定日になって入金を待っていても1円も入ってきません。驚いて電話をかけても誰も出ないか不通になっています。慌てて会社事務所に行ってみると、看板は外され、室内はもぬけの殻になっています。事務所前には他社の社員もいて「お宅もやられましたか」なんて話になり、愕然とします。

6 商品の廉価転売

 商品はとにかく早く現金化することが重要なので、詐欺会社は仕入れ値以下で販売することがほとんどです。このことは、取り込み詐欺を事件化するときに極めて重要な事項です。なぜなら、取り込み詐欺師らは、警察に捕まると100パーセント「真っ当な商売だった。支払い資金がショートして倒産しただけだ。」と否認します。しかし、売れ残りの長期在庫ならともかく、仕入れたばかりの商品を原価割れで転売するなど、まともな会社がやるわけがありません。したがって、取り込み詐欺を事件化するには、廉価販売を裏付けるために転売先が明らかになっていることが必須となります。

7 商品の販売先

 被害に遭った家電製品やおもちゃなどは、ディスカウントショップなどで販売されることが多いようです。被害にあった会社の社員が、自社製品が卸価格より安く店頭で販売されているのを見て驚いたという話を聞いたことがあります。

8 被害防止対策

 最近取引を始めたばかりなのに、少額取引の後に、いきなり大量発注を入れてくる会社は要注意です。会社登記を取ってみてください。会社設立は結構昔なのに、つい最近本店の場所が変わっていたり、それと同時に取締役も変更、目的が以前は「自動車修理・販売」「健康食品の製造販売」だったのが「各種商品の仕入れ・販売」などに大きく変更となっているような場合は危険です。取引を先入金とするか、せめて半額だけでも納品前に預かりましょう。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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