警察が受理しない告訴・告発(受理可能性%付)
公訴時効超過、親告罪の告訴期間(犯人を知ってから6か月)超過、明らかに犯罪ではない事案、告訴人が匿名、犯人に対する処罰意思不明といった告訴要件を満たさない告訴状が不受理とされるのは当然、他にも警察側が受理しないまたは受理する可能性が極めて低い告訴・告発があります。私の経験上、警察側が受け取らない告訴・告発について説明いたします。
1 被害弁済清み事件(受理可能性0~70%)
詐欺や横領といった財産犯で被害額を被疑者が全額または一部弁済している場合や、暴行、傷害等で治療費や慰謝料を被疑者が支払っている場合です。もちろんお金を払ったからといって罪が消えるわけではないので、告訴の提出は可能です。ただし、財産犯の場合で、被害金額の全額を弁済済みの場合は、実務上、検察官が起訴することはあり得ず、警察もこれを理由に告訴の受理を断ります。では、一部だけ弁済していればどうかといえば、これは弁済の程度によると思います。なので、受理可能性を幅広くしたのです。例えば100万円を騙し取ってそのうち10万円だけ返して逃げている場合、普通の刑事なら不受理の理由にはしません。しかし、半分以上返済していれば、不受理の可能性がかなり高くなります。決して基準があるわけではないのですが、実務ではこの「半分」が一つの目安となります。さらに、今後返済が受けられる見込みの有無も判断材料になります。結論としては、全額支払いを受けていれば不受理、1~2割程度なら受理が見込める。その中間なら他の状況と合わせて刑事の判断次第ということになるでしょう。
2 被害者に処罰意思がない事件の第三者告発(受理可能性0%)
財産犯や傷害、住居侵入といった被害者が存在する犯罪で、その被害者に犯人に対する処罰意思がなく被害届も告訴状も提出しない場合、その犯罪を知った第三者が処罰を求めて告発することは法的には可能です。ただし、こうした告発状を受理しても、検察官が不起訴とするのは明白なことと、事件処理に一番重要な被害者の協力が得られない可能性が高いことから、警察は100%受理しません。私も現役時代にこのような告発相談を受け、被害者に確認したところ「被害申告しません」とのことだったため、相談人に対し「被害者が告訴状を提出すればあなたの告発も受理しますが、そうでない限りはできません」と断ったことがあります。
3 海外発生事件(受理可能性1%)
日本人を被害者とする国外発生事件の告訴は法的には可能です。しかし、日本警察の捜査権は国外には及ばず、事実上何の捜査もできないことになります。海外警察に捜査を依頼するとすれば、告訴状等を英訳して警察庁経由でICPOに依頼し、現地警察に捜査を依頼するという形になりますが、殺人や誘拐といった重大犯罪以外は受け付けてくれないでしょう。したがって、詐欺や横領などであれば、受理は事実状不可能だと思われます。
4 公訴時効切迫事件(受理可能性0~30%)
殺人罪などを除き、全ての犯罪に公訴時効があります。詐欺、窃盗で7年、単純横領5年、名誉毀損3年です。通常、告訴する場合、犯罪発生から1年以内にする方がほとんどです。ですが、たまに時効間近になってから告訴相談に来られる方がいます。民事訴訟で敗訴して、せめて刑事で処罰させたいというケースが多いです。警察と検察との間では、告訴・告発事件について、どんなに遅くとも時効の6か月前までには送致するという取り決めがあります。告訴・告発事件は複雑な事件が多くて処理に何か月もかかるのが普通です。また、ほとんどの警察署刑事課では、告訴・告発事件を複数抱えており、時効が近い順番に処理していくというスケジュールがあります。ところがここに時効が1年を切った告訴事件が割り込むと、処理予定のスケジュールが大きく崩れてしまうため、時効間近な告訴・告発は非常に嫌がられます。さらに、発生から何年も経っている事件では、防カメデータが消去済みだったり、クレジットカード会社の取引明細が消去済みだったり(カード会社によっては保存期間が3年のところもあります)、関係者の記憶が薄れているなど、犯罪立証状の問題も多々あります。以上から、公訴時効が残り1年を切っているような事件は、受理を拒まれる可能性がかなり高いです。
5 証拠が告訴人の記憶以外何もない事件(受理可能性0~50%)
警察が告訴状の受理を拒否する理由で一番多いのがこの「証拠が無い」です。例えば詐欺事件で、犯人とのやり取りが100%口頭だけであって、契約書がない、パンフレットがない、領収書がない、名刺がない、メールがない、防カメがない、目撃者も参考人もいないとなればさすがに受理は厳しいです。警察側からすれば「本当にそんな事実があったのか?」「相談人の被害妄想ではないのか?」といった疑問すら湧きます。ただし、被疑者やその関係者が何らかの証拠資料を持っている蓋然性が高いなど、警察が押収することによって証拠が得られる見込みがあるなら受理される可能性はあります。また、性犯罪のように密室で行われる犯罪で、はじめから証拠資料が乏しいことが前提である犯罪であれば、告訴人の証言を慎重に判断して受理・不受理を決めます。こうした犯罪の場合は、有形・無形の証拠資料がないことが多いので、受理可能性は20~50%となります。
6 ネット上の名誉毀損や侮辱で既に当該書き込み等が消去され画像データ等の記録も一切残っていない場合(受理可能性0%)
既に消去されていても、画像データ等が残っていれば受理の可能性はあります。しかし、データが何もなく、URLすら記録してないとなると、事実上何の捜査もできないことから、不受理となるでしょう。
7 文書偽造罪で偽造文書の原本がない場合(受理可能性0%)
文書偽造罪の場合、筆跡鑑定はもちろんやりますが、紙からの指掌紋採取、凹みからの筆圧鑑定、紙質鑑定などを行うため、偽造文書原本の存在が必須です。現在手元になくても、銀行や法務局等に保存されており、警察が押収することで入手できる見込みがあれば受理の可能性はありますが、原本自体が廃棄される等して地球上に存在しない場合は不受理となります。
8 被告訴人が死亡している場合(受理可能性0%)
法的には被告訴人死亡の場合でも告訴は可能ですが、不起訴100%であり、警察は絶対に受理しません。
9 発生場所管轄ではなく、告訴人、被告訴人の居住地の管轄でもない警察署に提出した場合(受理可能性0%)
法的には告訴状・告発状はどこの警察署に出してもいいことになっていますが、実際に捜査を担当するのは、発生場所を管轄する警察署が大原則です。したがって、全然関係のない警察署に持っていっても「当署には管轄権がないので捜査できないため、管轄である○○警察署に持って行ってください」と言われて受理を拒否されます。いくら「刑事訴訟法に書いてある」と言っても折れないことでしょう。刑事訴訟法には罰則規定が一切ないため、条文に従わなくても処罰されることはありません。ネット上の名誉棄損や侮辱のように、発生場所という概念がない犯罪の場合は、被害者(告訴人)の住居地を管轄する警察署または被疑者(被告訴人)の住居地を管轄する警察署が担当となります。発生場所が遠方である場合はこちらを参考にしてください。
10 既に他署に相談したのと同じ事件(受理可能性0%)
例えばA署に告訴状を持ち込んだところ、断られてしまったことから、隣のB署に持ち込んだ場合ですが、「すでにA署にご相談されているので、引き続きA署に相談してください」と門前払いを受けます。警察の相談システムで、相談人の名前を入力すると、すでに相談をしている場合にはすぐわかるからです。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。