筆跡鑑定とは?偽造文書事件における役割【元刑事が解説】

 筆跡鑑定とは?偽造文書事件における役割

筆跡鑑定は、偽造文書事件で重要な証拠となることがあります。しかし、その鑑定結果の確度はどれほど高いのでしょうか?実は、筆跡鑑定の信頼性には限界があります。

筆跡鑑定の確度が低い理由

筆跡鑑定の結果は、以下のような要因によって大きく左右されます。

  • 鑑定する文字数が少ない場合:十分な比較材料がなければ、正確な判断が難しくなります。
  • 意図的に筆跡を似せた場合:偽造者が意図的に筆跡を模倣すると、特徴が分かりにくくなります。
  • 特徴点が少ない文字のみの場合:シンプルな文字ばかりだと、個人の筆跡の特徴が明確になりにくいです。

実際にあった筆跡鑑定の事例

ある事件では、告訴人が有印私文書偽造を理由に告訴しました。その際、民間の筆跡鑑定業者による鑑定書が提出され、鑑定には約30万円の費用がかかっていました。

しかし、警察が**科学捜査研究所(科捜研)**に正式な鑑定を依頼した結果、民間の鑑定とは異なり、「被告訴人の筆跡ではないと思われる」との結論が出ました。

筆跡鑑定の限界とは?

筆跡鑑定は、血液検査や微物鑑定のように客観的な数値データを基に判断するものではありません。鑑定官が「跳ね」「止め」「払い」などの特徴を観察し、主観的に判断するものです。そのため、鑑定結果の末尾は必ず「~と思われる」となり、あくまでも鑑定官の意見にすぎないのです。

筆跡鑑定を活用する際の注意点

  • 原本の提出が必須:筆跡鑑定には、偽造文書の原本が必要です。コピーでは筆圧や指紋の顕出、書き順等の鑑定ができません。
  • 民間と公的機関の違いを理解する:民間の筆跡鑑定は有料ですが、必ずしも公的機関の鑑定と一致するとは限りません。
  • 他の証拠と併用する:筆跡鑑定は決定的な証拠にはなりにくいため、他の物証や証言と組み合わせて判断することが重要です。

まとめ:筆跡鑑定の確度は限定的

筆跡鑑定は、偽造文書事件で重要な役割を果たしますが、その結果は絶対ではありません。特に、民間の鑑定と公的機関の鑑定が異なることも珍しくありません。筆跡鑑定を活用する際には、その限界を理解し、他の証拠と組み合わせることが重要です。

筆跡鑑定の依頼を考えている方は、まず原本を用意し、信頼できる機関に相談することをおすすめします。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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