簡単にわかる公訴時効の調べ方【元刑事が解説】
公訴時効とは、一定の期間が経過すると犯罪についての起訴ができなくなる制度です。当事務所でも、公訴時効が過ぎてしまい告訴できないケースの相談が多数ありました。そこで本記事では、公訴時効の基本知識と調べ方を詳しく解説します。
公訴時効とは?
公訴時効は、刑事訴訟法第250条に基づき、犯罪ごとに定められています。殺人罪や強盗致死罪など、死刑が適用される重大犯罪を除き、ほとんどの犯罪に公訴時効が存在します。
公訴時効の期間一覧
刑事訴訟法250条により、公訴時効の期間は以下のように定められています。
【人を死亡させた罪】(死刑適用の罪を除く)
- 無期懲役・禁錮:30年
- 長期20年の懲役・禁錮:20年
- 上記以外の罪:10年
【それ以外の犯罪】
- 死刑に当たる罪:25年
- 無期懲役・禁錮:15年
- 長期15年以上の懲役・禁錮:10年
- 長期15年未満の懲役・禁錮:7年
- 長期10年未満の懲役・禁錮:5年
- 長期5年未満の懲役・禁錮・罰金:3年
- 拘留・科料に当たる罪:1年
公訴時効の具体的な調べ方
例:窃盗罪の公訴時効
窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
- 「長期」とはその罪における最長の懲役・禁錮刑を指します。
- 刑罰が「10年以下」なので、「長期10年未満」(9年以下)には該当しません。
- 「長期15年未満」(10~14年)の項目に該当するため、窃盗罪の公訴時効は 7年 です。
公訴時効の開始時点と計算方法
公訴時効のカウントは「犯罪が終了した瞬間」から始まります。
- 窃盗罪:盗んだ品をポケットやバッグに入れた時点
- 詐欺罪:被害者から金品を受け取った時点
- 暴行罪:攻撃が終わった時点
- 住居侵入罪:住居から出た時点
- ネット上の名誉毀損・侮辱:書き込みが削除された時点、または犯人がプロバイダへ削除依頼をした時点
公訴時効の具体的な数え方
時効は「日単位」で計算され、時間は考慮されません。 例:2025年1月2日に窃盗が発生した場合
- 1日目:2025年1月2日
- 公訴時効成立日:2032年1月2日 午前0時00分
このため、2032年1月1日午後11時に逮捕しても、起訴の時間が足りずに時効が成立してしまう可能性があります。逮捕の時効は、起訴期限より数日前と考えるのが一般的です。
まとめ
- 公訴時効は犯罪ごとに期間が異なる
- 時効の開始は「犯罪が終わった瞬間」
- 時効は日単位で計算し、時刻は関係ない
旧記事
当事務所にお問い合わせをいただいた中で、既に公訴時効が超過してしまって、告訴ができない件が何件かありました。殺人罪、強盗致死罪、強盗・不同意性交等致死罪など、刑罰に死刑があって人を死なせた罪を除き、犯罪には公訴時効があります。では、どうやって公訴時効を調べたら良いかを解説します。
まず、公訴時効を定めている法律・条文は、刑事訴訟法250条になります。
第250条
時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
※1
1 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年
2 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年
3 前二号に掲げる罪以外の罪については十年
※2
時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
1 死刑に当たる罪については二十五年
2 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
3 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
4 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
5 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
6 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
7 拘留又は科料に当たる罪については一年
便宜上※1とした項は人を死亡させた罪です。※2はそれ以外の犯罪です。通常は※2部分しか使わないと思います。
では、例として窃盗罪の公訴時効を調べてみましょう。窃盗罪の罰条は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。※2に書いてある「長期」とはその罪の一番長い懲役(禁固)の期間を言います。「未満」とはその数字を含まないため、5の「長期十年未満」とは9年以下の懲役(禁固)のことになりますので、窃盗罪は該当しません。4の「長期15年未満」は、10~14年の懲役(禁固)となりますので、窃盗罪はこの4であることがわかります。したがって、窃盗罪の公訴時効は「7年」ということになります。
次に、公訴時効の数え方です。公訴時効の時の針が動き出すのは、犯罪が終わった瞬間です。窃盗罪なら他人の財物を自分の占有下に置いた瞬間、具体的には、金品をポケットやバッグに入れたときです。詐欺罪なら被害者から金品を受け取ったり、犯人側の口座にお金が振り込まれたときです。暴行罪なら、殴打などの攻撃が終わったときです。偽造私文書行使罪なら、偽造文書を見せられたときです。住居侵入なら、住居を出たときです。ネット上の名誉毀損や侮辱の場合、その書き込みや表示が続いている限りは、犯行は継続していると見なされるため、公訴時効の時計の針は進みません。こういった場合、針が進行を開始するのは、書き込みまたは表示が消えたとき、または犯人がプロバイダ等に対してその書き込み等の削除依頼をしたときです。くれぐれも、公訴時効の開始は犯行の終わったときです。被害者が事件に気付いたときではありませんので注意してください。
公訴時効は、「日」単位で数えるので、時刻は関係ありません。2025年1月2日が窃盗罪の犯行日だとすると、初日を1日目と数えますので、公訴時効は2032年1月2日午前0時00分になった瞬間に成立するということです。「公訴」つまり検察官の起訴の時効ですから、2032年1月1日午後11時に犯人を逮捕したとしても、1時間で起訴できるわけがありませんから、逮捕の時効はそれより数日前ということになるでしょう。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
