親族相盗例と相対的親告罪【元刑事が解説】
親族相盗例(刑法244条)とは?
親族間で発生した特定の財産犯罪について、刑が免除される特例が「親族相盗例」です。刑法244条に基づき、以下の犯罪が該当します。
- 窃盗
- 不動産侵奪
- 詐欺
- 恐喝
- 横領
- 背任
これらの罪(未遂を含む)が、夫婦、直系血族(親子・祖父母と孫など)、同居の親族の間で行われた場合、刑が免除され、逮捕や起訴がされることがないため、告訴も受理されません。
なお、民法725条の規定により「親族」とは 6親等以内の血族、3親等以内の姻族 を指します。
親族相盗例が適用されないケース
- 同居していない親族間の犯罪 → 告訴があれば処罰される
- 殺人、傷害、名誉毀損などの犯罪 → 一切適用なし
- 内縁関係や事実婚の夫婦間 → 適用なし
親族相盗例の理由
この規定が存在する背景には、以下のような考え方があります。
- 親族間の紛争に国家が介入すべきではない
- 親族間の財産関係が不明確であり、法益侵害が小さい
- 親族関係により犯罪責任が軽減されるべきである
相対的親告罪とは?
親族相盗例が適用される6つの財産犯罪は、告訴があった場合にのみ処罰される「相対的親告罪」に分類されます。これに対し、名誉毀損や過失傷害などは告訴が必須の「絶対的親告罪」にあたります。
告訴の不可分とは?
例えば、AとBが共犯 だった場合、Aに対する告訴はBにも影響を及ぼします。これを 「告訴の不可分」 といいます。
ただし、親族相盗例が適用される場合、Bが親族であるならば告訴の効力は及ばず、Bを処罰するためには AとBの両名を告訴状に記載する 必要があります。
まとめ
親族相盗例は、特定の財産犯罪に限り、親族間での刑罰を免除する規定です。しかし、同居していない場合や特定の犯罪には適用されず、告訴の有無によって処罰が決まる相対的親告罪として扱われます。親族間の犯罪に関する法律を理解し、適切に対処することが重要です。
旧記事
刑法244条(親族相盗例)により、
窃盗、不動産侵奪、詐欺、恐喝、横領、背任の罪(未遂を含む)は、夫婦間、直系血族(親子、祖父と孫など)、同居の親族との間で行われた場合は、刑が免除されます。つまり、直接の規定はありませんが、刑が免除される以上、逮捕も送致も起訴も事実上あり得ないということです。「親族」とは民法725条の規定に従い、6親等以内の血族、3親等以内の姻族となっています。同居でない親族間でこれらの犯罪が起きた場合は、告訴があれば罰せられます。名誉毀損や過失傷害などの「絶対的親告罪」に対して、これらは「相対的親告罪」と呼ばれます。夫婦間には、内縁関係や事実婚は含まれません。
この条文が存在する理由については、
親族間の紛争に国家か介入すべきではない
親族間の財産所有関係は明確ではないから法益侵害が小さい
親族関係という誘惑的要因により責任が減少する
などの考え方があります。
なお、この親族相盗例が適用されるのは、先に挙げた財産犯6罪と厳密にきまっており、殺人や傷害、名誉毀損など他の罪名には一切適用がありません。
告訴は、共犯者にも及びます。例えばABという二人の犯人がいた場合、A一人に対する告訴はBにも及びます。これを告訴の不可分といいます。ただし、上記6罪の場合でBが親族だった場合は、告訴の不可分の例外として、告訴の効力はBには及びません。もしもBにも処罰を求めるなら、被告訴人をAとBと記載した告訴状の提出が必要になるということです。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
