告訴受理以後の流れ
告訴状が受理されると刑事が一番先にやらないとならないのが「告訴人調書」の作成です。
これは、告訴状の内容を元に、告訴人本人を取り調べて、事件内容等の詳細を供述調書に録取するものです。この供述調書は、その告訴事件を立件する上で極めて重要な書類ですので、刑事に呼ばれた際は、関係書類や日記帳など、関連する資料は全て持って行きましょう。なお、刑事の質問に対して正しく答えることはもちろんですが、わからないことを推測で話したり大げさに話してもいけません。証拠品となるようなもの(犯人がサインした書類・犯人が置き忘れた物など)は、指紋やDNAを採取することがありますので、なるべく触らず紙袋等に入れて持って行きましょう。また、物に限らず、犯人が送ってきたメールや画像なども貴重な証拠ですのでスマホやSDカードなどの媒体で持って行きましょう。
暴行罪や傷害罪、性犯罪などで現場確認が必要な事件では、実況見分又は検証が行われます。これは告訴人と警察官が犯行現場に行って、告訴人の説明によって犯行現場の状況を記録することです。位置を特定するためにメジャーで固定物からの距離を測り、写真を撮影します。遺留物等があれば押収します。防犯カメラが存在すれば設置者、管理者に協力を求めて画像データを入手します。
実況見分と併せて犯行再現も行われます。これは警察署内の会議室等で犯行現場と同じような環境を作り、警察官が告訴人役と被告訴人役に分かれ、告訴人の指示で犯行状況を再現し、写真撮影などを行うものです。
告訴人の聴取等が終われば、次は参考人聴取(いれば)となります。社内犯罪であれば被告訴人直属の上司や同僚など、飲食店内での犯罪であれば犯行を目撃した店員や客などです。
銀行口座を利用した詐欺罪や横領罪の場合は、犯行に関係する銀行口座の入出金明細が必要になるので、刑事は関係先銀行支店に捜査関係事項照会書を送って回答を求めます。この回答には1週間から1か月かかります。回答された入出金明細を解析し、さらに別の口座にお金が移っていればその口座の銀行支店にも照会書を送ります。被告訴人の銀行口座がわからない場合には、「全店照会」といって主要銀行や被告訴人が住んでいる近くにある銀行、信用金庫などに被告訴人との口座取引がないかを照会書を送って調べます。振り込まれたお金がATM等で引き出されていれば、その画像も入手します。
被告訴人の遺留物がある場合は、指紋採取と照合を行います、被告訴人の氏名等がわからない場合は、微物を採取してDNA鑑定を行います。ただし、指紋もDNAも全国民のものが警察に保管されているわけではありません。一度犯罪を犯して警察で何らかの処分を受けたことがなければ記録はありませんので照合・鑑定しても何もわからないことがあります。
ある程度捜査が終了し事件送致できそうだという段階になると、「検事相談」と言って地方検察庁の検察官にそれまでの捜査状況をまとめたチャートなどを持参して相談に行きます。刑事が告訴状を受理したがらないのと同様、検察官も警察からの告訴事件送致はなるべく受けたくないので、厳しい指摘や注文が来るのが通例です。特に検察官の異動時期である3月が近づくと(ひどい場合だと前年11月くらいから)、「僕もうすぐ異動なんで次の検事に申し送っておきますから4月以降にもう一度相談に来てください」と言って送致させてくれないことがあります。
検事の注文をクリアしていよいよ送致OKとなると、被告訴人を逮捕して身柄送致するか、逮捕しないで任意捜査で書類送付(マスコミ用語で言う「書類送検」)にするかを決めなくてはなりません。一般的に言えば、被害届の事件に比べて告訴事件は重い罪であることが多いので逮捕することが多いのですが、被告訴人に前科・前歴がなく、逃亡や証拠隠滅のおそれがなければ任意捜査で送付することもあります。
ここであまり重要ではないのですが、送致と送付の違いについて説明します。送致とは被疑者を逮捕して身柄と書類を一緒に検察庁に送る場合と、告訴・告発以外の事件を被疑者を逮捕しないで書類だけ送る場合とを言います。送付とは、告訴・告発事件の被疑者を逮捕せず、書類だけ送ることを言います。一件書類の一番上に綴る書類の名前がそれぞれ送致書と送付書で異なります。送付は、受け取った検察庁側で「あ、この事件は告訴か告発事件なんだな」とすぐわかる以外にこれといった意味も効果もありません。
話を元に戻します。被告訴人を逮捕するとなると裁判所に逮捕状の令状請求に行くことになります。この時点で被告訴人の自宅や関係先の捜索差押を実施していなければ捜索差押許可状も同時に請求することになります。告訴事件の場合、送致段階になると書類の量がかなり多くなっていることがあり、車から裁判所まで台車で運ぶこともあります。書類が多いと裁判所事務官も読むのに時間がかかるので、午前8時30分に受け付けしてもらい、令状が発付されるのが午後5時過ぎなんてことも珍しくありません。
無事令状が発付されると、関係先の捜索差押をして証拠資料を押収し、被告訴人に逮捕状を執行して逮捕し、警察署に引致して留置施設に入ってもらいます。被告訴人は、48時間以内に地方検察庁(告訴・告発事件は区検察庁では地方検察庁送致)に送致され、送致された日から最大20日間留置施設に勾留されます。
この間、被疑者(逮捕後は被告訴人から被疑者と呼称が変わります)は刑事や検察官の取り調べを受け、被疑者供述調書の作成を受けます。否認する被疑者もいれば最初から認めてごめんなさいをする被疑者もいますが、告訴事件の多くは事前に入念に捜査を行い、検察官ともきっちり打ち合わせをしているため、否認しても黙秘しても公判請求(起訴)されることが多いです。
被疑者の供述内容によっては、検察官が告訴人を検察庁に呼んで、再度告訴人調書を作成する場合もあります。
公判請求されると被疑者は被告人という呼称に変わり、概ね1か月以内に拘置所に移送されます。ただし、共犯事件ではなく逃亡のおそれもなければ、通常数百万円の保釈金を払えば保釈してもらえます。
裁判が始まると、被告人が事実関係を認めている場合は告訴人が呼ばれることもなく2、3回の公判で判決が出ます。
否認や黙秘で事実関係を争うことになれば告訴人が公判に呼ばれて証言を求められることがあります。この場合、事前に公判担当検察官に呼ばれて公判対策レクチャーを受けることがほとんどなので、本番の公判で慌てなくて済むようになっています。余談ですが、東京地方検察庁では事件担当検察官(検事相談から起訴までを担当)と公判担当検察官とが異なりますが、他府県地方検察庁では事件と公判を同じ検察官が担当します。
刑事の仕事は起訴まででほとんど終わりですが、否認事件では公判担当検察官から連絡が来て補充捜査を下命されることがたまにあります。告訴人の方は裁判の傍聴に行かれることが多いと聞きます。刑事は担当した事件の公判に行くことはほとんどありません。これは刑事が傍聴席に座ることで被告人にプレッシャーを与えるのは良くないという見方があるためと、1件告訴事件が終わっても次のそのまた次の告訴事件が待っているので、傍聴に行っている暇がないということもあります。本当に1件送致するとまた1件告訴相談が来る感じで永遠に無くならないのです。
告訴人から電話が来て「相手に有罪判決が出ました。○○刑事さんに苦労してもらったおかげです。ありがとうございました。」こう言われると本当にうれしいものです。知能犯担当刑事をやっていて良かったと思えるのは数年に一度こんな電話があったときくらいです。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。