他人の物を持ち去るのは窃盗罪? 横領罪? 詐欺罪? それとも?

 横領罪か詐欺罪かで悩むケースはよくあります。また横領罪と窃盗罪、窃盗罪と詐欺罪でも悩むケースがあります。詐欺盗と言って、被害者に声をかけて嘘を言い、被害者が気を取られている隙に金品を持って行ってしまう手口があります。これは一見詐欺罪と思われますが、詐欺罪ではなく窃盗罪です。被害者が騙されて自ら財物(または利益)を提供するのが詐欺罪であり、事前に騙し行為があったとしても、被害者が気付かないうちに財物を持ち去れば窃盗罪なのです。

 新聞販売店で配達用の原付バイクを従業員が持ち逃げしてしまうケースがよくあります。このケースでは、バイクを貸与している状況によって窃盗罪か横領罪かに分かれます。例えばバイクは販売店にしか置かず、厳正に配達だけにしか使用させてない場合、このバイクを乗り逃げすれば窃盗罪になります。一方、バイクを従業員に貸し与えて、通勤から休日の足代わりなどに自由に使わせており、事実上本人の持ち物と大差ないような状態であれば、これを持ち逃げするのは横領罪になります。同じような例は現金の場合でもあります。会社の経理担当のように、会社の預貯金や現金を預かる立場にある者がこれを自己のために費消等すれば(業務上)横領罪になります。しかし、コンビニやスーパーのレジ打ち担当の場合、レジ内の現金は店から預けられているとは言えず、これを懐に入れれば、窃盗罪になります。

 社員が会社のお金を着服した場合では、窃盗罪、横領罪、業務上横領罪、詐欺罪の4つの罪名が考えられます。お金を扱う部署ではない社員が会社の金庫から現金を抜き取れば窃盗罪になります。夜間金庫に入れるように経理担当からたまたま頼まれた一般社員がこれを使い込めば横領罪になります。経理担当社員など、会社資金や預金を占有・保管・管理する立場の者が資金を自己目的で消費すれば業務上横領罪になります。なお単純横領罪より業務上横領罪のほうが罪が重く(横領罪は5年以下の懲役、業務上横領罪は7年以下の懲役)、公訴時効も異なるため、適用には十分注意しなければなりません。一般社員が虚偽の支払伝票を作成し、事情を知らない経理担当に現金を請求して受け取れば詐欺罪になります(私文書偽造、同行使罪にも該当します)。もしもこの経理担当が事情を知っていて加担したならば二人は共犯関係となり、経理担当は業務上横領罪、一般社員は横領罪になります。なお、社員が会社に恨みを持っていて、会社のお金を持ち出して、ドブに捨てたり、ホームレスに配ったりしたら何罪になるでしょうか? 正解は背任罪です。一般社員なら単純背任ですが、取締役がやると会社法の特別背任罪となり、罪が重くなります。

 このように一見すると単純な犯行のようでも何罪に当たるのか微妙なケースは珍しくなく、判断に悩むことは警察官、刑事でも日常的によくあることです。一般の方ではなかなか判断が難しいことですので、当職にご相談くだされば、長年の刑事経験から適切な擬律判断をして告訴状の罪名を正しく特定いたします。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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