告訴事実の書き方22(背任罪)
背任罪は、他人のために事務をする者が、自己又は第三者の利益を図り、あるいは被害者に損害を与える目的で、自己の任務に背く行為をして、被害者に財産上の損害を与えるという犯罪です。自己の利益で考えた場合、限りなく(業務上)横領罪に近いのがわかると思います。では、どうやって横領罪と背任罪を見極めるかと言いますと、事務員が組織の金を自分のものにして組織に損害を与えたという事件であれば、通常横領罪が成立するはずです。しかし、滅多にありませんが、横領罪に馴染まないケースがあります。例えば、組織の現金を家に持ち帰ったが、1円も使わずにゴミとして捨ててしまったような場合です。窃盗罪も横領罪も財産犯なので、不法に得た財産は、その経済的な用法によって費消するとの目的が必要です。窃盗罪の場合、不法に得た金品を破壊又は投棄すれば窃盗罪ではなく、器物損壊罪になります。横領罪で考えれば、不法に得た金品の投棄は、背任罪で言う「被害者に損害を与える目的」に該当しますので、背任罪で処理するという選択になるのです。よって、背任罪というのは、横領罪が成り立たないときの最後の頼み綱のような側面を持った珍しい罪種とも言えます。なお、実務で背任罪を事件化する機会はそうそうありません。先ほども説明したとおり、通常は横領罪が成り立つことがほとんどだからです。
銀行員による不正融資背任罪の告訴事実記載例です。
告訴事実
刑法第247条 背任
被告訴人は、東京都稲城市に本店を置く株式会社稲城銀行(告訴人)本店営業部長として、同部の業務全般を統括し、顧客に営業資金を貸し付けるに当たっては、関係法令及び同行定款や規定に基づいて、融資先の経営状態等について厳正に審査し、また確実な担保を設定して、同行のために融資金回収に万全の措置を取るべき任務を有していたものであるが、令和5年4月3日、上記本店営業部において、株式会社印度の利益を図る目的をもって、被告訴人の任務に背き、同社には債務返済能力が無く、さらに担保となるべく資産も無く、近い将来にまとまった資金の入金予定も無いことを知りながら、何の担保も設定せず、同社に対して5億5000万円を貸し付け、もって、同行に同額の財産上の損害を加えたものである。
説明で挙げた現金投棄の告訴事実記載例です。
告訴事実
刑法第247条 背任
被告訴人は、東京都品川区大井町1丁目4番6号株式会社アドレ(告訴人)の経理課員として勤務し、同社のため、同社の預貯金及び現金の保管と管理、経費や公租公課の支払、給与計算とその支払などの業務に従事していたものであるが、その任務に背き、同社の資金を投棄して同社に損害を与えようと企て、令和6年4月4日午後2時30分頃、同区大井町1丁目4番18号所在の三井銀行大井町支店において、同支店に開設された同社名義口座(当座1234567)から現金1000万円を引き出した上、これを東京都大田区仲六郷1丁目56番地被告訴人方に持ち帰り、翌4月5日午前6時30分頃、同現金を大田区指定の可燃ゴミ袋に入れた上で、告訴人方前路上に設置されたゴミ集積場にゴミとして投棄して回収不能ならしめ、もって、同社に同額の財産上の損害を与えたものである。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。