告訴事実の書き方16(名誉毀損罪、侮辱罪)

 名誉毀損罪と侮辱罪は、最近はネット上でよく話題になる罪名です。SNS等の利用拡大により、他人に対する誹謗中傷の文言が飛び交い、警察にも毎日のように相談が寄せられます。中には、精神疾患や自死に追い込まれる例もあり、悪質なものはきちんと罰せられないとなりません。

 しかし、誹謗中傷つまり悪口というのは、言われた側によって感じるところは違います。例えば、極端な例ですが、一般人の方が誰かに「この前科者」と言われれば、ほとんどの人が不快に感じ、警察に訴えようと思う人もいるでしょう。反対にいわゆる反社とか半グレと言われる人の中には「この人前科10犯だから」などと言われると、それを自慢にして喜ぶ人もいます。このように、何を言われたら名誉毀損(または侮辱罪)が成立するかは、言われた人の立場や職業、生き方、考え方等々により異なるものであり、一律に定められるものではありません。とはいえ、一般のほとんどの人が言われても何とも思わないだろう言葉を捉えて、「自分にとっては侮辱の言葉だ」と言っても説得力はないでしょう。具体的にどのような文言が名誉毀損罪又は侮辱罪になるかは、個別の事案ごとに判断することになります。なお、言葉だけではなく、裸体画像を公開する行為も名誉毀損罪になります。

 名誉毀損罪と侮辱罪のどちらに該当するのかは、よく問題になります。一つのポイントとしては、条文内にもあるように、「事実を摘示したら名誉毀損、事実摘示がなければ侮辱罪」というものです。例えば「隣家の山田○○は痴漢で○○警察署に3回捕まっている。」というのは、それが真実かどうかは別として、事実を摘示していますので名誉毀損罪になります。「隣家の山田○○はすごくスケベだ」というのは、単純な評価を示すだけで事実摘示がないので侮辱罪になります。なお、名誉毀損罪の罰則は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金であるのに対し、侮辱罪の罰則は、1年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)又は科料(千円以上1万円未満)と、同じような犯罪でありながら、侮辱罪が軽いことにも注意が必要です。

 両罪が成立するには、「公然性」が必要です。「公然性」とは、不特定又は多数に知らしめることです。裁判例では、20名で認めた例もあれば、「伝播性がある」との理由で数名で認めた例もあります。誰もが見ることのできるネット上の書き込みならほとんどの場合該当すると思われますが、特定の2~3人しか見ることのできないグループ掲示板などは該当しません。

 対象となるのは特定の人又は法人です。人も法人もどこの誰(法人)かが明示されている必要があり、ハンドルネームやID、「関西人」「トラック運転手」などの表現は該当しません。「鈴木明」のように、日本全国に何千人といるだろう名前の場合も、これ以外に「千葉県○○市○○町に住んでいる鈴木明」といったように、個人特定ができるような情報がなければ成立しないと考えます。

 通常、犯罪は、犯行が終わった瞬間から公訴時効のカウントが始まるのですが、ネット上に名誉毀損内容が書き込まれてそのままになっている場合、犯行は継続しているものとして公訴時効の時計の針は進みません。ネット上から消去されるか、書き込んだ人間がプロバイダ等に削除要請をした時点で公訴時効が進みます。

 名誉毀損罪、侮辱罪ともに、親告罪です。告訴が無ければ検察官は起訴(公判請求)することができません。親告罪なので、告訴期間が定められており、犯人を知ったときから6か月を超過すると告訴することができなくなり、犯人を処罰することができなくなります。「犯人を知ったとき」とは、犯人の氏名(本名)等はもちろんのこと、氏名はわからなくても、後で会えばはっきりわかる程度に顔を見て覚えている場合も「知ったとき」になるとされています。HNやIDは、氏名ではありませんので、「知ったとき」にはなりません。

 言葉による名誉毀損罪の告訴事実例です。

 インターネット上の名誉毀損罪告訴事実例

 口頭による侮辱罪の告訴事実記載例


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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