告訴事実の書き方3(暴行罪・傷害罪)
今回は、暴行罪と傷害罪の告訴事実をご案内します。態様にもよりますが、一般的には詐欺罪などと比べてとても簡単な部類の事実だと思います。まず、暴行罪ですが、よくある態様としては、手拳(握りこぶし)で殴る、足で蹴る、手で押し倒す、水をかける、物を投げつけるなどが挙げられます。その結果としてケガ(内出血含む)を生じると傷害罪になりますので、加えられた攻撃が比較的軽く、暴行の瞬間には痛みを感じてもすぐに引いたような場合が該当します。回数的には、何十発も殴られれば普通はどこかケガをしますので、暴行罪の場合は2、3回程度がほとんどでしょう。暴行罪の告訴事実記載例です。
告訴事実
刑法第208条 暴行
被告訴人は、令和6年6月29日午後4時15分頃、茨城県牛久市○○町4丁目345番地先路上において、告訴人に対し「おまえ、俺のことバカにしてただで済むと思うなよ。」なとど言いながら、右手拳で告訴人の左頬を1回殴打する暴行を加えたものである。
解説
日時は、暴行罪の場合、○○分頃から○○分頃までの間とせず、○○分頃とするのが一般的です。2、3回殴る程度であれば、せいぜい2、3分程度でしょうから、あえて「4時0分頃から4時3分頃までの間」とする必要もないからです。ただし、最初の攻撃から最後の攻撃までが明らかに10分以上あったと見なされる場合には「0分頃から10分頃までの間」としても構いません。
発生場所については、道路上であれば事例のように記載します。目の前が店舗等であれば「○丁目○○番地セブンイレブン○○駅前店前路上」と記載する方法もあります。建物内であれば「株式会社山田商事1階エレベーターホール前」のように記載します。
暴行時の文言については、だらだら長く記載する必要はなく、事例くらいの長さで十分です。無言だった場合は何も記載しないか、前後関係から理由が明白な場合は「○○先路上において、告訴人とすれ違う際に傘と傘がぶつかったことに激高し、右手拳で・・・」などと記載してもいいでしょう。
攻撃の態様については、被告訴人が何(右手なのか左手なのか、それとも物なのか)で、告訴人のどこ(左頬なのか右頬なのか、右足なのか左足なのか)を何回攻撃したかを記載します。被告訴人が左右どちらの手で殴ったか思い出せない場合は「左右いずれかの手拳で・・・」と記載します。攻撃回数も同様に、思い出せない場合は「4、5回程度」などと記載します。
次は傷害罪の告訴事実記載例です。
告訴事実
刑法第204条 傷害
被告訴人は、令和6年6月29日午後4時15分頃、茨城県牛久市○○町4丁目345番地先路上において、告訴人に対し「おまえ、俺のことバカにしてただで済むと思うなよ。」なとど言いながら、右手拳で告訴人の左頬を1回殴打する暴行を加え、よって、告訴人に対し、全治10日間を要する左頬打撲傷の傷害を負わせたものである。
解説
先の暴行罪の告訴事実と比べていただいてわかるように、結語部分以外は全く同じです。というのも、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、ケガがあれば傷害罪、無ければ暴行罪という違いでしかありません。ケガの負傷名や全治期間などは医師の診断書によります。何らかの理由で診断書が無い場合には「全治不明の左頬打撲傷等の傷害を・・・」などと記載します。注意しないといけないのは、診断書の期間が「全治」とある場合と「加療」とある場合がありますので、正しく記載します。診断書は無いけれど、診察した医師の口頭説明だけあった場合は「全治10日間を要する見込みの・・・」などと記載します。
PTSDの場合
告訴事実
刑法第204条 傷害
被告訴人は、令和6年5月7日頃から同年10月5日頃までの間、東京都杉並区杉並本町2丁目3番5号被告訴人方から、同区同町2丁目3番6号告訴人方に居住する告訴人に向けて、告訴人に精神的ストレスによる精神障害が生じる可能性があることを認識しながら、あえて、連日早朝から深夜に至るまで、大音量でテレビやラジオを流し続けて告訴人に精神的ストレスを与え、もって告訴人に対して全治不明の睡眠障害、うつ等の障害を負わせたものである。
傷害致死
告訴事実
刑法第205条 傷害致死
被告訴人は、山元夏夫(当時39歳)が、自己が貸し付けた現金30万円を返済しないことに激怒し、令和6年5月7日午後5時0分頃、東京都杉並区杉並本町2丁目3番5号先路上で同山元を待ち伏せ、通りかかった同人の顔面、胸部などを自己所有の包丁で数回にわたって切りつけるなどの暴行を加え、その結果、同人に顔面切創、胸部切創などの傷害を負わせ、よって同日午後8時0分頃、同区荻窪3丁目3番5号所在の荻窪西病院内において、上記傷害による失血により、同人を死亡するに至らせたものである。
同時傷害
告訴事実
刑法第207条 同時傷害
被告訴人吉本貞夫は、令和6年5月7日午後5時0分頃、栃木県小山市立木33番5号先路上において、告訴人に対し、両手拳で数回殴打し、その際、被告訴人園田益男も、告訴人の顔面を両手拳で数回殴打し、被告訴人両名による前記暴行により、告訴人に対し、全治3週間を要する顔面打撲、鼻骨骨折の傷害を負わせたが、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができないものである。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。