告訴状・告発状を提出するタイミング【元刑事が解説】
告訴状・告発状を捜査機関に提出する場合、特に民事訴訟と平行して行うことを予定していると、どちらを先にするかやどのタイミングで告訴・告発するかで悩む方が多くいらっしゃいます。どちらを先にすべきかは、事件内容や相手方の対応状況によって異なってきますので、一律にどちらを先にすべきかは言えないようです。弁護士先生を依頼しているなら、その判断に任せるのが賢明かと思われます。
純粋に犯人の厳正な処罰を希望されているなら、告訴状・告発状の提出は、犯罪被害にあった日、犯罪被害を知った日から1日でも早くすべきです。日にちが経つに従って警察が告訴状を受理してくれる可能性はどんどん下がります。以下にその理由を挙げていきます。
1.証拠が散逸する
防犯カメラ画像、銀行やコンビニATMのカメラ画像、パソコンのログデータ、携帯電話会社の通話明細データなど重要な証拠となるデータは、一定の保管期間を過ぎると消去または提出拒否されます。保管期間は各企業、団体によって異なりますので、半年くらいは残っているだろうと思っていても、いざ警察が照会したら既に消去済みになっていることもあります。データに限らず、領収書や契約書といった紙媒体や、被害品などの物証も廃棄や売却されてしまうことがあります。
2.犯行現場が無くなってしまう
暴行罪、傷害罪、強盗罪、窃盗罪、性犯罪などで、事件当時の犯行現場は駐車場であったが、現在はマンションが建っているような場合、重要な捜査手続である実況見分や検証ができません。
3.関係者の記憶が薄れる
被告訴人(被疑者)、目撃者、参考人など、事件に関係する人物の記憶は、当然日数が経つほどに薄れていきます。特に目撃者の写真面割りなどは、事件直後であれば被疑者を正しく抽出できたのに、日にちが経って忘れてしまい、誰かわからないということもあり得ます。また、最悪、目撃者や重要参考人が病気や事故で亡くなってしまうということもあります。
4.捜査できる期間が限られる
例えば暴行や器物損壊、名誉毀損の公訴時効は3年です。告訴事件は、警察と検察庁との間で公訴時効の半年前までには送致する決まりになっているので、実質2年半しかないことになります。発生から1年半経って告訴状を提出した場合、捜査できる期間は1年ということになります。1年あれば十分と思われるかもしれませんが、忙しい警察署では告訴状が数十件溜まっていることがあり、そこに残期間が1年しかない事件が割り込んでくると処理スケジュールが乱れるので、刑事は受理を嫌がります。
5.刑事の心境
警察署では毎日何らかの事件・事故が発生し、刑事はその対応で手一杯なことが多いです。そこに1年前や2年前に発生した事件を持ってこられると「なんで今頃になって来るんだよ!」というのが正直な心境です。普通の刑事はそう思ってもぐっとこらえて話を聞いてくれますが、中には「なんで今頃になって来るんですか。現在進行中の事件捜査で手一杯で、そんな古い事件やってられませんよ。」とあからさまに拒絶する刑事がいるかもしれません。
こうした事情から、発生・発覚から日にちが経った事件は受理されにくくなります。目安としては、1年が一つのメルクマークと言えるでしょう。犯人を絶対に許せないので起訴して有罪にしてほしいと強く望んでいる方は、1日も早く警察や専門家に相談することを強くおすすめいたします。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
