告訴・告発が相手に与えるダメージについて【元刑事が解説】
告訴・告発は、犯人の刑事処罰を求める手続ですので、検察官によって起訴され、裁判で有罪の判決が出ればそれによって処罰を受けるのは当然です。検察官が不起訴としたり、裁判で無罪となれば相手には何のダメージもないかと言えばそんなことはありません。告訴・告発が警察に受理された後、相手がどのようなダメージを受けるか以下に記載します。
1.警察の呼び出しを受け「被疑者」として取調べを受ける
告訴が受理されると、警察は必要な捜査を行い、ある程度に達した段階で被告訴人を逮捕するか任意捜査で呼び出して取り調べるかを決めます。任意捜査となった場合は、被告訴人を警察署に呼び出し、「被疑者」として取り調べます。取調べは1日で終わることはなく少なくても2、3回、多ければ数十回も呼び出すことがあります。私は、ある常習的な詐欺事件で、被告訴人を警察署に30回以上呼び出して取り調べたことがあります。お客様ではないので、お茶も出しませんし、椅子はパイプ椅子ですから居心地が良いわけはなく、これだけで被告訴人は相当の苦痛を感じることになるでしょう。
なお、任意の呼び出しに応じない場合は、所定の呼出状による呼び出しを数回行い、これにも応じなければ逮捕状によって逮捕され、警察の留置施設に入ることになります。被告訴人に「逃亡のおそれ」または「証拠隠滅のおそれ」があれば、任意で呼び出さずにいきなり逮捕します。
さらに、検察庁に送致された後は、検察官からも呼び出されて取調べを受けることになります。
2.自宅や関係先が警察の捜索差押(ガサ)を受ける
逮捕予定の場合、ほとんどの場合、被告訴人の自宅や職場などの関係先を捜索差押することになります。被告訴人に子どもがいる場合は、できるだけ子どもがいないタイミングで入りますが、親や配偶者、同居人がいれば当然知られることになります。近所の人にもわかってしまうこともあります。事件に関係する書類や印鑑、通帳などのほか、スマホ、PC、記録媒体なども押収されます。スマホなどを除き、基本的に事件終結まで還付されません。
3.逮捕される
1で説明したとおり、「逃亡のおそれ」「証拠隠滅のおそれ」があれば逮捕されることになります。具体的には、一定の住居がない、定職に就いてない、家族がいない、共犯者がいる、証拠品を隠匿しているような場合には逮捕される可能性が高くなります。
4.警察の犯歴データに登録され「前歴1」になる
「前歴」とは、法律用語ではないのですが、警察・検察の中では「何らかの犯罪を犯したとして『微罪処分』または『送致』された」ことを言います。告訴・告発されると警察は必ず事件を送致しないとならないので、前歴1としてカウントされます。不起訴や無罪になってもこのカウントは消えません。起訴されて有罪判決を受け、これが確定すると前歴1は前科1に取って代わられます。なお、前科も前歴もその人の生涯消えることはありません。
5.指紋と写真、DNAが採取される
警察に逮捕されると、刑事訴訟法の規定により、被疑者は強制的に写真と指紋を取られ、任意ですがDNAも採取されます。逮捕されず任意捜査で書類送致された場合も、強制ではないのですが、指紋、写真、DNAの採取に応じるよう強い説得を受けます。最終的に応じる被疑者が多く、採取率は99%くらいです。
なお、捜査した結果、被告訴人に犯罪の容疑が全くないとわかった場合は、写真や指紋を採取しません。もちろん逮捕もしません。書類送致となるのは仕方ありませんが、前項で記載した前歴1にはしません。
6.マスコミに報道される可能性がある
特異な事件、被害額が多額な事件、被告訴人が公務員や著名人である事件であれば、マスコミが被告訴人の逮捕や書類送致を報道することがあります。逮捕であれば、検察庁に送致されるタイミングで撮影され、テレビやネットニュースで容姿が放映されます。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
