見習いの警察学校生なのに深夜交番に一人にされた話【元警視庁刑事のコラム】
警察官になるためには、警察学校を卒業しないとならないと思われている人がいますが少し違います。各都道府県警の採用試験を受けて合格したら、警察学校に入校したその日から警察官です。法的には、犯人に向けてけん銃を撃つこともできますし、逮捕状で犯人を逮捕することもできますし、交通違反者に切符を切ることもできます。もちろん、入校し立ての警察学校生にいきなりそんなことはできませんので、大卒6か月、高卒10か月の教養と訓練の期間が設けられています。そんな警察学校生ですが、入校期間中のちょうど真ん中辺りで「実務修習」といって、警察学校から警察署に10日間ほど通って、実際の勤務を体験する制度があります。見習いなので、実務2年以上の先輩巡査(指導巡査)がマンツーマンで付いて一緒に勤務し、決して実務修習生を単独にしないことになっています。けん銃も付けますが、中に弾丸は入っていません。
私は、台東区にある下谷署という下町の警察署に派遣となりました。警察署から交番に行く途中、町の人たちが「お巡りさんこんにちは」とみんな挨拶してくれるようなとても感じの良い町でした。国道4号線沿いにある三ノ輪という交番に就き、当番(宿直)勤務で深夜、担当の先輩巡査と二人で立番(交番前に立って警戒に当たること)していたときのことでした。もう1名の勤務員であるベテランの班長(巡査長)は交番2階の休憩室で仮眠中でした。そんなとき、110番で交通物件事故が入りました。本来であれば、寝ているベテラン班長を起こし、班長に立番してもらって、先輩と私とで事故現場に向かうべきなのですが、先輩は仮眠に入ったばかりの班長を起こすのをためらい、「淺利、班長起こすのマズいから、物件事故なんですぐ終わって戻るから一人で頼むな」と言って私を残して一人で出ていってしまいました。
これには参りました。法的には警察官だと言っても、まだ警察学校に入って3か月くらいです。不安ばかりで自信なんかカケラもありません。心の中で「誰も来るんじゃないぞ。何も起こるんじゃないぞ」と心の中で祈りながら一人でぽつんと立っていると、交番の裏のほうから、いきなり40歳くらいの女性がハアハア言いながら走って駆け込んできたのです。ビックリして「どうしましたか?」と聞くと、女性は興奮した様子で「バッグ、ひったくられたの! バイクに乗った男! そこの○○通りのところ!」と訴え出ました。その当時は原付スクーターに乗って、深夜一人で歩いている女性のバッグを盗む「ひったくり」という手口が流行っており、警察内では問題となっていました。女性は発生場所を「○○通りのところ!」と言うのですが、下谷署管内の地理がさっぱりわからず、女性の言う○○通りの場所もわかりません。このような事案は「急訴事案」といって、すぐに110番するということを警察学校で習っていたので、交番の警察電話から110番をかけました。通信指令本部の警察官が応答したのですが、私は何から説明して良いのかわからず「あの、女性が来て、ひったくりみたいです。場所は、よくわかりません」などと、しどろもどろになりながら説明しました。指令本部の警察官は要領を得ない説明にこいつは何者なんだろうと思ったのでしょう。「おたく誰? 本当に警察官なの?」と聞き返してきました。私が「はい、警察学校の実務修習生です」と答えると「なるほど、じゃあ指導巡査に変わって」と言われました。しかし指導巡査はいません。そこで「いません」と言うと、ちょっと驚いたようでしたが、「では被害者に変わって」と言い、被害者から直接状況を聞いてくれました。しどろもどろの私より、この女性のほうがきちんと状況を説明してくれたので助かりました。すぐに無線で一斉手配が流れ、物件事故に行っていた先輩も急いで戻ってきてくれて、ようやくほっとすることができました。今思えば、2階の班長を起こせば良かったのですが、青二才の私にはそんな発想はなく、一人でバタバタしてしまった次第です。これを読んでいる若い警察官の方がいましたら、実務修習生を絶対に一人にしないようにお願いします。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。


