立会川「大」公務執行妨害事件

 品川区の大井警察署で新米巡査部長として大井町駅前交番に就いていたときの夜9時くらいのことでした。隣の立会川交番管内で駐車苦情の110番が入りました。無線で立会川交番から年配の巡査部長が行くとのやり取りが入ってきました。それから少しして、その巡査部長の無線機の緊急発信ボタンが押され、何かもみ合っているような音と「やめろ!」というような声が聞こえてきました。私はただちに白チャリに乗って110番があった場所に向かって飛ばしました。現場は、京浜急行立会川駅から少し離れた立会川という汚れた川沿いにある居酒屋前の路上で、到着すると、数人の警察官と30人くらいの16~18歳くらいの不良少年たちが怒号しながらもみ合っている状況でした。
 状況はこうでした。現場近くに窓ガラスがバリバリに割れたシャコタンの族車が止まっており、これを見た付近の住民が駐車苦情として110番を入れたのでした。実はこの車、目の前の居酒屋で貸し切りで行われていた、地元暴走族のリーダー格が当日少年院を出てきたことの出所祝いに参加しているメンバーが乗ってきたものでした。何も知らない交番のお回りさんは、普通の駐車違反として取り締まろうと準備をしていたところ、店内からこれに気付いた不良どもが「おい、お巡りが俺らの車になんかしてるぞ! やっちまえ!」となり、泥酔した不良どもが全員出てきて一人のお巡りさんを取り囲んでしまったものでした。
 元々たちの悪い不良少年がしこたま飲んで酔っているので、怖い物なしです。しかも30人くらいいるので警察官数人ではどうすることもできません。無線ですぐに応援を呼び、他の交番から全員とパトカー3台、内勤の私服宿直員も駆けつけましたが、不良は暴れ回って手が付けられません。そこで基幹系無線で警視庁本部司令室に応援を求めたところ、近接の大森、荏原、品川さらに交通機動隊からも応援のパトカーが駆けつける事態になりました。暴れのひどい3人を公務執行妨害で現行犯逮捕しましたが、署に連行するためにパトカーに乗せようとするところを他の不良が引っ張って奪還しようとするので、なかなか乗せられません。私はつっかかってくる一人ともみ合いになっていたところ、そいつにかぶっていた帽子のつばを下からすくい上げられて飛ばされてしまいました。こういうときには事前に帽子のあごひもをかけて飛ばされないようにすべきでだったのですが、その頃はまだ経験が足りず、かけていなかったのです。さらに、すぐに帽子を拾いに行けば良かったのに、飛ばした相手としばらくもみ合いを続けてしまったため、少しして帽子を拾いに行くともうありません。立会川の上にかかる橋の上から下をのぞくと、私の帽子が海に向かって流れていくところでした。不良のうちの誰かに立会川に捨てられたのです。
 周辺署からの応援もあって1時間くらいして徐々に落ち着きはじめ、とても30人全員を逮捕することもできないので、3人だけ逮捕してお互いに引く形でその場は収まりました。どうしようもない悪ガキどもでしたが、地元の不良だったため何人かは面識のある連中で、多少の自制はあったようで、お互い大きなケガをするようなことはありませんでした。
 帽子はロッカーに予備があったので、何とかなりました。翌日の非番に亡失の書類をもって飯田橋の被服センターに行って、新しい帽子と帽章を受け取ってきました。タイトルに「大」公務執行妨害事件とおおげさに書きましたが、成田闘争時代を知っている警察官にしたらお笑いレベルだと思います。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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