警察と消防の違い
戦前は警察と消防は同じ組織でした。戦後、分離され、現在は全く異なる組織です。その仕事内容は、一般的には似ていると思われがちですが、実際は組織体制も含め、かなり異なります。以下に例示してみます。
①組織体制が異なる。
東京消防庁は、警視庁と同じで東京都の組織です。従って東京都内ならどこの消防署にでも転勤があり得ます。ただし、大島や三宅島といった島部だけは別で、消防は大島なら大島町の組織、三宅島なら三宅村の組織になります。警視庁の場合は、島部も含めて全て警視庁の組織です。
東京都以外の消防組織は、市町村単位になります。例えば千葉県柏市の消防は柏市役所の職員と同じで、市外へ転勤することなく、定年までずっと柏市内で勤務することになります。町や村でも同じです。道府県警察は、すべてその道府県職員であり県内であればどこの警察署にでも異動があります。
②消防には送致権も捜査権もない。
警察は、事件があれば捜査し、必要なら逮捕状やガサ状を請求し、被疑者を逮捕して(あるいは逮捕せずに書類だけ)検察庁に送致します。消防にはこうした権限が一切ありません。したがって、消防法違反を認知した場合は、警察に告発し、受けた警察が捜査して検察庁に送致します。放火事件が発生しても同じです。消防には捜査権がないので、張り込みや聞き込みなどの捜査はしません。
③消防の仕事は基本的に現場で終わり。
火事があれば、消防隊員は現場に行って放水するなどして消火に当たりますが、完全に火が消えればそれで終わりです。翌日「掘り起こし」といって、警察と協力して火災原因の調査に当たりますが、警察は前日の宿直員が居残って行うのに対し、消防は日勤勤務の調査担当が担当します。焼死者がいればその検視を行うのは警察だけで、消防は立ち会いません。事件性があって解剖となる場合、警察は立ち会いますが、消防は立ち会いません。火災が放火や重失火で事件となった場合は、警察は捜査して送致しないとなりませんが、消防は一切ノータッチです。
暴行を受けてケガをした被害者や意識不明で病院に救急搬送された人の扱いも同じです。救急隊員は、病院まで搬送して終わりです。警察は、暴行事件の被害者であれば、治療後、医師にケガの状態を聴取し、診断書を書いてもらって被害者を警察署に同行して、被害届や供述調書を作成します。その後、犯人を逮捕するか任意で呼び出して取り調べて送致します。搬送された方が亡くなった場合は、警察署の霊安室に運んで検視を行い、事件性ある場合は解剖となり、立ち会います。解剖終了後は署に戻し、遺族に引き渡します。
このように何かあると警察官は夜勤明けにやることいっぱいで夜中まで帰れないことが普通にあります。消防はだいたい朝9時に帰れます。
④20年働いて行政書士になれる(警察)なれない(消防)
警察官として20年勤務すれば無試験(書類審査あり)で行政書士になる資格が得られますが、消防は一部部署の経験者を除き、書類審査が通りません。
⑤武器を持てる(警察)持てない(消防)
当たり前といえば当たり前の話ですが、警察官はけん銃、警棒、警杖、催涙スプレー、盾といった武器を持ちますが、消防には武器と言えるものはありません。
⑥来訪者数の違い
東京の場合、警察署と消防署が近かったり隣接していることもあるのでよくわかるのですが、一般人の来訪者の数が雲泥の差です。警察署には、毎日、運転免許変更関係、道路使用許可申請、駐車違反者の出頭、古物商・風俗営業等各種許認可申請、被害届提出、各種相談、少年柔剣道関係、留置人との面会、落とし物関係、道案内等々、さまざまな用で来訪者が訪れます。一方で消防署を訪ねる人はかなり稀です。
⑦訓練量の違い
⑥で述べたとおり、消防とは近いことが多いので、消防の訓練量がどれだけ多いかはよく知っています。本当に朝から夕方まで、何らかの訓練をするか走ってます。警察も柔道、剣道、逮捕術、合気道、警杖術など、訓練はありますが、基本的には朝の就勤前(つまり勤務外)がほとんどです。消防は現場が全て(言い過ぎ?)なので、在署時間はひたすら訓練に時間を費やす感じです。警察には溜まった被害届や告訴状、交通切符、相談事案等の処理があって、訓練は時間外なのです。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。