刑事を騙し取られた詐欺事件【元警視庁刑事のコラム】
私が本部の生活経済課からI署に異動になったときのことです。移動後すぐに知能犯捜査係に配置されました。知能犯係には昔から知っている先輩のS係長がいました。S係長から早速1件の詐欺事件の申し送りを受けました。被害額約1億円の地面師詐欺事件です。ただし、まだ相談の段階であり、告訴状は受理していませんでした。S係長の説明はこういうものでした。
・この事件は非常に複雑な上、被疑者が7人もいて警察署だけで処理するのは難しい。
・主犯格は地面師詐欺界隈では有名なU・Mである(積水ハウス事件の主犯格)。
・同じU・Mを主犯とするT署の地面師詐欺事件捜査本部に当署のX刑事を派遣している。その交換条件として、T署の事件が終われば、そこにいる捜査二課捜査員が当署に移動して来てこの事件を処理してくれる。
というのものでした。告訴状案をぱらぱらっと読みましたが、確かに一度読んだだけでは何が何だかさっぱりの難しい事件でした。
S係長からは「二課が来てやってくれるから、受理だけして待ってれば大丈夫だから」とも言われました。「じゃあ、あんたが受理してよ」と言いたいところでしたが、このS係長には、私が巡査部長時代に姉歯一級建築士の耐震偽装事件本部で世話になったことがあるので言えませんでした。そこで、告訴状案を何度も読んで事件を理解し、告訴人を呼んで告訴状を正式に受理し、告訴人調書も作成しました。告訴人である不動産会社社長からは「この事件の犯人は絶対に許せないので絶対に厳しく処罰してください。」と強く頼まれました。私は「間もなく捜査二課が来てやってくれますから安心してください。」と答えました。
少しして、T署の事件が終わり、X刑事が帰ってきました。しかし、なぜか捜査二課員はI署に来ず、他署の事件に移ってしまいました。捜査二課からは「予定変更したのでそちらには後で行く」とのことでした。このときの捜査二課地面師詐欺事件担当の係長(警部)はZ係長でした。
告訴受理から2か月が経ち、3か月が経ち、半年が経ちましたが、捜査二課が来る気配がありません。Z係長からはたまに電話がかかってきて捜査の進捗情状を聞かれ、「今まだすぐには行けないから、こことここの捜査をやっておいて。I署には行かなくてはいけないことはわかっているから」と言っていました。その間にも告訴人である社長からは何度も電話があり「いつになったらやってくれるんですか?」と聞かれました。私はその度に謝って「捜査二課が来るまでできませんので、もう少しお待ちください」と同じ返事を何度も繰り返しました。
そんな状況のまま、1年が経ち、2年が経とうとする頃、Z係長は管理職試験に合格し、捜査二課から多摩地区某署の刑事課長として転出してしまいました。その際、電話をくれて「事件のことは後任者に引き継いでおくから」と話しましたが、私はこの時点で非常に嫌な予感を感じました。警察幹部がこの手の引き継ぎをした際、後任者は必ずしも前任者の意向を尊重しないからです。そしてその予感は的中します。結局、受理から4年経っても捜査二課は入ってこず、業を煮やした知能犯担当の課長代理(警部)が捜査二課と直談判した結果、捜査二課の回答は「行かないからそっちでやって」という最悪なものでした。結局、I署は、捜査員1名を騙し取られて、長期間いいように使われだけで終わってしまったのでした。
その後、私はA署に異動になったので、この事件を処理することはできませんでした。聞いた話しでは、やはり署だけの体制では逮捕してまでの捜査は困難であり、被疑者らを任意で調べて書類送付したとのことでした。
地面師詐欺事件の捜査の経過と捜査体制の課題
私は、生活経済課から異動し、I署の知能犯捜査係に配属された際のことです。異動後、すぐに担当となったのは、被害額約1億円の地面師詐欺事件でした。この事件は非常に複雑で、主犯格は地面師詐欺界隈では有名なU・Mであり、積水ハウス事件の主犯としても知られています。
地面師詐欺の捜査の初期段階
S係長からの申し送りでは、事件の難解さと関与者の多さが強調され、捜査において当署だけでは処理が難しいことが示されていました。特に、地面師詐欺事件の主犯格であるU・Mを取り巻く捜査体制が複雑であることがわかりました。
捜査二課の期待と実態
S係長の説明に基づき、T署での地面師詐欺事件の捜査が終了した後、捜査二課の捜査員がI署に派遣される予定でした。しかし、予定が変更となり、捜査二課がI署に派遣されることなく、別の署に転任することとなりました。捜査の進展が遅れ、告訴人である不動産会社社長からは何度も進捗を尋ねられましたが、私は「捜査二課が来るまでお待ちください」と返答し続けました。
捜査の遅延と内部の課題
捜査の遅延が続き、1年、2年が経過しました。最終的に、捜査二課のZ係長は管理職試験に合格し、転任することとなり、後任者に事件の引き継ぎが行われました。しかし、後任者が捜査の引き継ぎを十分に行わず、事件は進展しませんでした。
最終的な捜査結果
最終的に、I署だけで事件を捜査することは困難となり、警察署内で捜査が完結できなかったため、捜査二課に協力を求めることができませんでした。その後、他の署で任意捜査を行い、書類送付という形で事件を処理することになりました。
地面師詐欺事件と警察捜査の課題
この事件からわかるのは、地面師詐欺のような複雑な事件において、捜査機関間の連携が重要であること、また、組織内での引き継ぎが捜査の進行に大きな影響を与えることです。地面師詐欺のような重大な詐欺事件では、早期に専門の捜査員が関与することが不可欠です。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、2024年6月までの32年間、警視庁警察官として勤務し、そのうち25年間を刑事として告訴・告発事件の捜査に携わってきました。
中でも、告訴・告発を中心に扱う知能犯捜査の経験が最も長く、数多くの事件で、実際に告訴状・告発状を受理し、捜査を進めてきました。
刑事部捜査第二課在籍時には、警視庁本庁舎(霞が関)の聴訴室において、告訴状を持参される弁護士の先生方と日々向き合い、
「事件として受理すべきか」「問題点は何か」
その現場の判断基準を、実務の中で徹底的に学び、鍛えられてきました。
だからこそ私は、警察が何を重視し、どこを見て告訴状を判断するのかを、初期段階から具体的に想定しながら作成することができます。
告訴・告発事件については、刑事の中でも専門性を持って取り組んできた分野であり、強い自負があります。
現在は、千葉県犯罪被害者支援センター会員として、
「費用面で弁護士への依頼をためらっている方」
「警察に何度も相談したが、前に進めずにいる方」
そうした犯罪被害者の力になりたいとの思いから、行政書士として告訴状・告発状の作成支援を行っています。
実際に、
「告訴、受理されました。淺利さんにお願いして本当に良かったです」
というご連絡をいただく瞬間が、何よりの喜びであり、この仕事を選んで良かったと心から思う瞬間です。
警察の内側を知る行政書士として、
“受理される可能性を高める告訴状・告発状”を、本気でサポートします。


